九州大学(九大)理学研究院生物科部門の谷村禎一准教授の研究グループは、ショウジョウバエを用いた実験によって、ハエは味にだまされることなく栄養価を体内で判断してエネルギー源となる糖を学習できることを発見した。同研究成果は、2011年4月21日(米国東部時間)に、米国の科学雑誌「Current Biology」(オンライ版)に掲載された。
動物が食物の栄養価をどのように判断して食べているのかについては未解明である。味覚で美味しいものかどうかは判断できるが、美味しいものがすべて栄養価が高いとはいえない。また、人間は栄養学の知識を持たずに、自分に必要な栄養素を選んで食べることは困難である。こうした謎を解明するために、研究グループでは、ショウジョウバエをモデルに実験を行った。
ソルビトールという糖はショウジョウバエにとって無味だが、ハエにソルビトールだけを与えると生き延びることができる。一方、アラビノースという糖はショウジョウバエにとって甘いものの、まったく栄養価がなく、アラビノースだけを与え続けると、最初は食べるものの、その後はあまり食べなくなる。この行為により、ショウジョウバエは、食べた後に体内でその栄養価を判断しているということが考えられるという。
また、ショウジョウバエにソルビトールと水にそれぞれ違う匂いをつけて、10分間食べさせてから1時間何もないビンを入れるという試行を4回繰り返した後、2種類の匂いのどちらを選ぶかを調べた結果、ソルビトールと組み合わせた匂いの方をより多く選んだという結果が示され、これによりショウジョウバエが栄養価を学習できることを示されたと研究グループでは説明している。
こうしたショウジョウバエの能力はこれまで明らかにされていなかった。また、人間とショウジョウバエは多くの遺伝子を共有していることから、ショウジョウバエは人間の食行動と栄養学研究のための良い実験モデルになると考えられるという。
なお、研究グループでは、今後はショウジョウバエの体内でどのように栄養価を判断しているのかの解明を目指すほか、糖以外の食物の選択にも同様なメカニズムがあるのかどうかを研究していく予定としている。