京都大学(京大)は、同大の柴田一成 理学研究科附属天文台教授・台長、A. Hillier 理学研究科附属天文台博士課程3回生らの研究グループが、プロミネンス中に生じているバブル現象について、バブルが数百万度であり、強い磁場に貫かれていることを明らかにした。同成果は、科学誌「Nature」の2011年4月14日号に掲載された。

太陽のプロミネンス(紅炎)は、皆既日食の際に太陽の縁で赤い炎または雲のように見える現象として知られている、その構造や形成メカニズムについては謎な部分が多かった。

図1 プロミネンスの、「ひので」衛星可視光望遠鏡(SOT)による観測(上図)と、SDO極紫外線望遠鏡(AIA)による観測(下図)。極紫外線観測は25万度~百万度の高温ガスを観測しているのに対し、可視光観測は数千度~数万度程度の低温ガスを見ている。上図のprominence bubbleと書いてあるところが、「ひので」で発見されたバブル。下図を見ると極紫外線で光っており、高温であることがわかる(出所:京都大学Webサイト)

プロミネンスは温度が数千度~数万度ながら、超高温の太陽の中ではもっとも冷たい現象で、周りのコロナ(百万度)と比べると温度は100分の1くらい低いこととなるが、その密度はコロナより100倍くらい大きい。密度が大きいということは重いということであり、それが静かに浮かんでいるのは大きな謎であった。

近年の太陽の観測により、プロミネンスが浮かんでいるのは磁場の力による、ということがほぼ確定できるようになったが、プロミネンスの磁場は観測が難しく磁力線の形がどうなっているのかは良く分かっていないのが現状である。しかし、研究者たちは、重いプロミネンスのガスが、おそらくハンモックのような磁力線に引っ掛かって浮かんでいるのではないかという仮説を提唱していた。

図2 プロミネンスの磁力線のモデル。(上)3次元的な磁力線のモデル。(下左)同じモデルを別の角度から見たもの。(下右)緑の板状の構造がプロミネンス。(右)プロミネンスの部分だけを拡大した図。線は磁力線。青い板のようなガスがプロミネンスの本体。重力が下向きに働いており、重いプロミネンスが、ハンモック状の形をした磁力線による磁力でささえられている(出所:京都大学Webサイト)

そうした中、2006年に打ち上げられた日本の太陽観測衛星「ひので」が、プロミネンス中に謎のバブル現象を発見した。バブルは「泡」を指すが、太陽のプロミネンス中に水の中に取り込まれた空気が泡(バブル)となって浮き上がっていくのとそっくりの現象が確認された。

太陽のプロミネンスは、はりがねのような強い磁場によって貫かれた、がちがちの硬い現象だと考えられていたが、水の泡のような「やわらかい」バブルがプロミネンス中のあちこちに出来て浮き上がっていくのが見つかったことから、どのようにそうした現象が生じているのか、そもそも、磁力線のハンモックによってプロミネンスが浮かんでいるというモデルは正しいのだろうか、という問題が謎となっていた。

今回、研究グループは、2010年に米国で打ち上げられた太陽観測衛星「SDO(Solar Dynamics Observatory)」と"ひので"による共同観測と、コンピュータ・シミュレーションを用いて、プロミネンスのバブルの謎の解明を行った。

この結果、バブルは百万度程度の高温であり、強い磁場に貫かれていることが判明した。これにより、従来のハンモック・モデルが大雑把には間違っていないが、ハンモック構造が静かにしているという描像が正しくなく、正しくは、ハンモック中の磁力線は絶えず動いており、高温のバブルが形成されたところは軽いので上昇し、低温高密となったところは下降するといった、対流構造を形成していることが判明した。

図3 プロミネンス中のバブルの観測とシミュレーションの比較(出所:京都大学Webサイト)

研究グループでは、今回の研究の成果を受け、プロミネンス中のバブルが磁力線をコロナ・キャビティに運び、その過程によってキャビティに磁気エネルギーが次第にたまっていくのではないかという仮説を新たに提唱している。これは、地震でいうと、断層にひずみがたまることに対応しており、磁場の量が限界に達するとプロミネンスが噴出すると考えられるという。

プロミネンスの噴出により、太陽フレア(太陽面爆発)が発生する。また、同時に、コロナ質量放出が発生し、惑星間空間に大量の磁気プラズマが放出され、これらの磁気プラズマが地球に到達すると、磁気嵐が起こり、人工衛星の故障や通信障害、電力網寸断などの被害を地球規模で及ぼすこととなる。こうした被害を未然に防ぐためには、宇宙天気予報が必要であり、プロミネンスの研究は、地震の研究のようなもので、いつ噴出するかが分かれば予報が可能になるわけで、その実現のためにはプロミネンスの解明が必須であると研究グループでは、プロミネンスの研究の意義を説明している。