日立製作所と慶應義塾大学(慶応大) 理工学部システムデザイン工学科 西宏章准教授らの研究グループは、2015年以降の新世代ネットワークの実現に向け、ネットワークを仮想的に分割するネットワーク仮想化を活用し、アプリケーションの要求速度や通信容量に応じて最適に使い分けてネットワークの利用効率を高める通信制御技術を開発した。これにより、通信事業者が従来と同じ規模の通信設備で従来よりも多くの通信利用者に高速な通信環境を提供することや、利用者が多様なアプリケーションを低コストで利用することが可能になるという。同成果は2011年3月14日から東京都市大学で開催される「電子情報通信学会2011年総合大会」にて発表される予定となっている。
近年、クラウドコンピューティングの浸透やスマートフォンの普及によるネットワーク・アプリケーションの急増などにともない、ネットワークに対する高速・大容量化が求められており、今後、センサネットワークを利用した防災システムや交通制御システムなどの普及が進むと、24時間365日安定したサービスの提供を可能とするネットワーク基盤のニーズはさらに高まることとなる。
そのため、現在、新しい概念に基づくネットワーク(新世代ネットワーク)の研究開発が日米欧を中心に進められており、中でも、ネットワークを構成する物理資源を仮想的に複数に分割し、通信速度や通信容量の異なる仮想ネットワークを複数共存させることで、新たな利用目的に合わせたネットワークの構築を容易にする「ネットワーク仮想化技術」が注目され、ネットワーク仮想化の実現に向けた研究開発が進められている。
今回研究グループが開発した技術は、現在開発されている仮想ネットワークの通信容量を通信データ量などに応じて柔軟かつ最適に割り当てる技術、および仮想ネットワークの経路を最適化する技術で、シミュレータを用いた実証実験の結果、仮想ネットワークの経路を最適化する技術を用いることで、従来、インターネットで用いられている方式に比べて、ネットワーク全体の利用効率を、約2倍に向上できることが判明した。
具体的な技術としては、バックアップなどのために複数のデータセンタ間でデータを同期する際に、データセンタ間に発生する通信データ量の変動に応じてアプリケーションの要求速度を満たす最適な通信容量を計算し、仮想ネットワークの通信容量を動的に割り当てる技術を開発したほか、速度変動の大きいモバイル環境においても、より多くの利用者に快適な通信環境を提供するために、無線アクセス網の通信速度の変動に応じて、通信利用者の要求速度を満たす範囲で通信容量に余裕のある無線アクセス網と仮想ネットワークの組み合わせを動的に選択する技術を開発した。
また、通信経路の組み合わせが数百億通り存在する大規模なネットワークにおいて、通信経路の空き容量を考慮した最適な通信経路を設定し、インターネットなどで用いられている従来方式に比べて約2倍、通信利用者に高速な通信環境を提供する仮想ネットワークの最適な通信経路を設定する技術を開発した。
さらに、ネットワークにつながっている端末同士の通信品質が劣化した際に、過去の通信品質劣化の情報から原因である輻輳が発生した箇所を特定する技術も開発した。
なお、研究グループでは今後、今回の研究開発の成果を、ネットワーク仮想化技術を用いた実証実験用のプラットフォームに適用することで、ネットワーク仮想化技術の実証を行う計画としている。