東京大学の羽鳥恵、廣田毅、および深田吉孝教授らを中心とした早稲田大学、国立循環器病研究センター、東京大学大学院農学生命科学研究科、および山口大学との共同研究チームは、光による概日時計の時刻合わせにSREBPという転写因子が関与することを解明し、光で活性化したSREBPは松果体におけるステロイドホルモンの合成と分泌を促進し、行動量を上昇させることを発見した。
生物は約24時間の周期を持つ生物時計で、睡眠・覚醒やホルモン分泌など生体内の様々な日周リズムをコントロールしている「概日時計」を体内に備えている。概日時計はすべての生物に共通して周囲の光環境の変化に同調するための時刻合わせ機能を持っており、日暮れ後に光が当たると時刻を遅らせる一方、夜明け前の光では時刻を進める機能を持っているが、その分子的な仕組みはよくわかっていなかった。
今回、研究チームでは、日暮れ後または夜明け前の光で活性化される遺伝子をDNAマイクロアレイを用いて網羅的に探し、その遺伝子群の特徴に基づき、時刻によって異なる光応答を生み出すメカニズムに迫ろうと考え、ヒヨコの松果体を用いた解析の結果、コレステロールの生合成に関係する多数の遺伝子が日暮れ後の光で活性化されることを明らかにした。
これらの遺伝子の光応答は、E4bp4遺伝子の光応答パターンと似ていることが確認された。E4bp4は時計遺伝子Per2を抑制して概日時計の時刻合わせをする重要な因子であり、研究チームでは、光応答の元締めになる因子を探索した結果、コレステロール生合成系の遺伝子群を誘導する転写因子SREBPが日暮れ後の光によって活性化されること、そしてこのSREBPはE4bp4遺伝子の転写を促進することを発見した。
この結果、SREBPは日暮れ後における概日時計の光応答を生み出す鍵となる因子と考えられるものの、新しい疑問として、日暮れ後の光でE4bp4 遺伝子と共に活性化されたコレステロール生合成系の遺伝子群は、いったい何をしているのか、という疑問が生じたという。
研究チームが解析した結果、松果体はコレステロールをもとに7α-ヒドロキシプレグネノロンという神経ステロイドを活発に合成・分泌することが判明した。日暮れ後に松果体を取り出して光を当てると7α-ヒドロキシプレグネノロンの分泌量が上昇し、ヒヨコ脳内に7α-ヒドロキシプレグネノロンを投与すると行動量が大きく上昇したという。これらの結果から、神経ステロイドの分泌を介して目覚ましにも寄与するという「松果体の新しい生理機能」が明らかになった。
今回の研究成果は、時刻に依存して光で活性化される経路を明らかにしただけでなく、遺伝子発現が行動の変化を導く過程を明確に示すものであり、研究チームは、メラトニンを介して睡眠を促進すると考えられてきた松果体が目覚ましにも寄与するという今回の知見は、今後、時差ボケの解消方法を見つけていく上でも重要な足がかりになるとしている。