現在、グローバルカンパニーの多くが拡大/成長のための戦略として企業買収を積極的に行っている。自社に欠けている技術力やノウハウを迅速に調達するには、買収は非常に有効な手段であることは確かだ。とくにIBMやOracle、Microsoftなどの巨大ITベンダにとっては、毎月のように大型の買収案件を発表している。
だが一方で買収や企業合併は、さまざまな意味でひずみを伴う。買収の規模が大きければ大きいほど、そのひずみもまた大きくなる。リストラや事業廃止など、明るくない話が聞こえてくることも多くなるだろう。顧客の混乱や不安も十分に予想される。だが、IT企業の場合、そういった問題とは別に、非常にクリティカルな事態がもうひとつ生じる。それぞれの企業がもつ技術のインテグレーション(統合)という大問題だ。企業買収とは本来、自社の技術を補完する技術を"迅速に"手にできるものでなければならないはずなのだが、最近の大型買収はそういった面では首をかしげざるを得ないような、統合に膨大な時間とコストがかかっているケースが目に付く。
ドイツ・ダルムシュタットに本社を置くSoftware AGもここ数年、企業買収を積極的に行っている企業のひとつだ。有名なところでは2007年に米企業のwebMethodsを、そして2009年にはIDS Scheerの買収を発表し、現在は両者ともすでにSoftware AGの主力ポートフォリオに組み込まれている。そして同社の買収案件についていえば、少なくとも技術的統合は他のIT企業と比較して非常にスムースに運んでいる印象を覚える。IDS Scheerの買収完了は、政府の認可や株式の保有率などの問題により、買収合意発表から1年以上の月日を経た2010年12月となったが、IDS Scheerの主力製品「ARIS」は現時点ですでにwebMethodsとの連携が可能になっている。
Software AGのCEOを務める"KHS"ことカール=ハインツ・シュトライビッヒ氏。Software AGのコアコンピタンスは? という質問には「顧客のビジネスプロセスをデジタル化し、技術的な革新を進めることが我々のコアコンピタンス」と回答 |
競合他社が苦しむ技術統合において、なぜ同社はスムースに運ぶことができるのか。Software AGでCEOを務めるカール=ハインツ・シュトライビッヒ(Karl-Heinz Streibich、以下KHS)氏は「我々は企業買収を検討するとき、その企業のコアコンピタンスを重要視する」と語る。その企業および技術/製品が、Software AGの現在のポートフォリオをどのように補完するか、製品を統合することでどの程度の競争優位性を得られるのか、といったことを徹底的に検証するという。とくにKHS氏は技術的優位性へのこだわりが強いことで知られており、ユニークであるだけでなく、その分野で突出したエクセレンスをもっている企業であることが重要な基準であるようだ。
買収検討段階では、当該企業の製品をSoftware AGの製品にどう取り込むか、そのグランドデザインを描くプロセスに入る。IDS Scheer買収の際は、IDSの主力モデリング製品であるARISをSoftware AGのwebMethodsに統合するという作業をスムースに運ぶためのシミュレーションを重ねたという。もしこの段階で技術的統合に多大な時間やコストがかかる、あるいは統合はかなり難しいという判断がなされれば、買収そのものをサスペンド、あるいは撤回することもある。「過去、実際に技術的統合が難しいという判断に至り、買収を撤回したケースがある」と同社のビジネスインフラストラクチャ製品&ソリューション担当のバイスプレジデント Jignesh Shah氏は語る。そして、買収案件がおおやけになるころには、すでに技術的統合の確証が得られており、買収完了前には統合がほぼ完了している状態にもっていくことが同社のスタイルとなっている。
企業買収で生じる負の面をできるだけ小さくするため、時間と手間をかけて入念な準備を行う。一見、あたりまえのことのように聞こえるが、買収後の"不幸"を少なくし、経営効果を高めるためには、欠かせないプロセスなのだ。現にSoftware AGはIDS Scheer買収を成功裏に終えたことで、売上/利益およびキャッシュフローの数字を大幅に改善させることができたとしている。
2011年3月にドイツ・ハノーバーで開催された「CeBIT 2011」において、同社は今後も買収戦略を積極的に展開すると明言しており、KHS氏は「2 - 4年に1度の頻度で(IDS Scheer規模の)大型買収を行っていく用意がある」と語っている。Shah氏によれば、ターゲットとなるのは、同じくCeBIT 2011で発表した同社のクラウド戦略「Cloud Ready」を補完するようなクラウド技術に長けている企業、ソーシャルネットワークやモバイルを得意とする企業、そしてスケーリングに注力している企業などだという。