米TwitterのCEOであるDick Costolo氏は2月14日、スペイン・バルセロナの「Mobile World Congress 2011」で基調講演を行った。Costolo氏は2010年10月、それまでCEOを務めた共同創業者のEvan Williams氏に代わってCEOに就任しており、もちろんMWCでの基調講演は初めて。ホールを埋め尽くした来場者を前に、Costolo氏はTwitterが目指すこと全体について話をした。
Costolo氏は冒頭、Twitterの目標として、
- 瞬時に役に立つ
- もっとシンプルに
- いつでも、どこでも使える
の3つを挙げた。この3つを満たすものは「蛇口をひねると出てくる水」だ。国を超え、用途を超え、人は当たり前のものとして、考えることなく水を使う。「台所で水を使った後、シャワーで水の使い方を一から学習する必要はない」とCostolo氏、そんな存在をTwitterは目指す。
リアルタイムでの体験共有、社会を変えるTwitter
Costolo氏は公演中、Twitterがもたらした現象をいくつか紹介した。たとえば、スペインのサッカー選手がパレード中、パレードの感想について写真とともにツイートした例を取り上げる。人々は昔、パレードを見に行っていた。その後写真を撮るようになり、TVで放映されると自宅で見る、とパレードというイベントに対する参加方法を変えてきた。このツイートは、パレードにいる人々がリアルタイムでエクスペリエンスを共有するようになったことを示す「象徴的なもの」とCostolo氏。「これまでわれわれがユーザーに代わってエクスペリエンスを作ってきたが、ユーザーが自分たちでエクスペリエンスを作り始めている」と述べる。
Twitterの出現により、スポーツイベントも変わりつつある。先のSuper Bowlでは、ゲーム中1秒に3,000件のツイートがあり、優勝決定時には4,000件に急増した。この分野のそれまでの最高記録は、2010年のFIFA World Cupだ。日本とカメルーンの試合中は1秒で3,000のツイートがあり、別の試合ではブラジルがゴールすると1秒3,200のツイートが飛び交ったという。
Costolo氏はTV番組の例も挙げる。「Xfactor」「Glee」など欧米の人気TV番組は放映中、それに関するツイートが急増するという。特にコマーシャル中に増え、番組が終わると元に戻ることから、リアルタイムでTV番組を観て感想など体験を共有しているのだろうとCostolo氏は言う。「Twitterは第2の画面になっている」
それ以外でも、日本では2011年の元旦を迎えてすぐ、1秒6,000件の"あけおめ"ツイートが書き込まれたことも報告した。
これらが示すことは、人々が再び、体験共有のためにTV番組などのイベントにリアルタイムで参加するようになったことだ。これは、DVRなどの登場により同じ時間にTVを観なくなったといわれていたちょっと前の流れからは、「とても想像できないこと」とCostolo氏は言う。
Twitterはいまでも「マイクロブログサービス」と紹介されることが多いが、「マイクロブログと呼ぶことは、(Twitterが及ぼす)社会を変えるような重要なインパクトを見逃している」とCostolo氏。自動車の登場を"馬のない馬車"と呼ぶことは、自動車が人々の生活を変えたインパクトを見落としていることになる。これと同じことという。
Twitter自身が関わったものもある。Twitterはハイチ地震の際、救済活動に自社サービスを提供、地元のオペレータと組んでSMSツイートを無料で提供したのだ。この動機について、Costolo氏は、「ユーザーに価値を提供・創造すれば、その価値は複数倍になって返ってくる」と述べた。
モバイルでの取り組み
Twitterはモバイルでよく利用されている。現在、全ツイートの40%が携帯電話からで、アクティブユーザーの50%は複数のプラットフォームで利用しているという。モバイル分野では、OEM、キャリア、プラットフォームベンダらと協業し、適切なレベルの統合を進めてきたとCostolo氏。たとえば、SMSとの統合やスマートフォンでの深いレベルの機能統合だ。今後もこのような協業を進めていくとした。
複数のプラットフォームで利用するという点については、端末を変えても新しく学習することなくTwitterを使えることを目指す。「現在、BlackBerry、Androidなどプラットフォームで使い方が異なる。今後は同じようにしていきたい」とCostolo氏、優先課題の1つだという。「多くのユーザーが複数のプラットフォームでTwitterを使っており、複数のプラットフォームで使えばさらに利用するようになる。好循環が起こっている」とも述べた。
Costolo氏はこれ以外にも、「今年しなければならないこと」という優先課題を挙げた。Twitterが初めてという新規ユーザーが、すぐに"はまる"ようにすることだ。Costolo氏はこれを、「Twitterの認知からエンゲージまでの距離」とする。フォローしあう相手が増えてくるとずっと使い続けるという傾向があり、今後、「認知とエンゲージがほぼ同時に起こるよう、変えていく」と戦略を語る。
Twitterはすでに売上を出している
Costolo氏はビジネス面についても語った。「Twitterはいつ売上を上げるのかと聞かれるが、短い答えは『すでに売り上げを上げている』だ」とCostolo氏(なお、氏は「make money」と述べており、収益のことなのか、売上のことなのかはわからない)。長期的な目標としては、「通常の企業と同じだ。顧客と関係を持ち、価値を提供すること」とややあいまいな表現だった。コミュニケーションを進化させる機能を提供することがミッションだという。
後のQAセッションでは、売上のモデルとして、「Promoted Trends」「Promoted Tweets」「Promoted Account」の3種類を紹介した。これらを使って、「企業がTwitterを活用する方法を強化する」とCostolo氏。スピーチ中には、フライトが遅れたユーザーが顧客サービス用の電話ではなく、Twitter経由で航空会社よりフライトのコンファームをもらった例などを紹介、今後CRM的な利用方法を強化していくとも述べた。
なお、少し前に、Wall Street JournalなどがGoogleとFacebookがTwitter買収に向け話し合いを進めていると報道したが、これについては「うわさだ」と否定した。同じくQAセッション中、「最も恐れているものは?」と聞かれると、「(ビジョンを)遂行できないこと」と一言。成長は問題ではないという。「現在、1日1億3,000万のツイートがある。われわれは異常なピッチで成長している。競合は怖くない」と自信を見せた。
チュニジア、エジプトなど中東地区での政変でTwitterやFacebookが重要な役割を果たしたといわれていることに対しては、「われわれが果たした役割にフォーカスすると、地域の人々が成し遂げたことへの評価を減ずる」と述べた。エジプト政府のネット遮断については、「水を求めるのと同じ。遮断されても、人々は他の方法を探し出した」と述べた。
このように、講演はTwitterのインパクトとビジョンにフォーカスしたものとなった。社内で常にビジョンについて議論しているというCostolo氏、「人々が自分にとって意味があることに、瞬時にコネクトできるようにする」と水のような存在になることを目指すことを強調した。