NECは、固体電解質中での金属原子移動を利用した不揮発性スイッチ「NanoBridge」を回路の再構成用スイッチに用いて、低電力な再構成可能回路の動作実証を行ったことを発表した。同成果は、2011年2月20日から24日まで米国・サンフランシスコで開催されている半導体回路技術の国際学会「ISSCC 2011(International Solid-State Circuits Conference)」において、22日(米国時間)に発表された。
NanoBridgeは、固体電解質中での金属イオンの析出・溶解反応を利用し、LSIのCu配線間にナノメータサイズの金属架橋を生成・消滅して、スイッチのオン・オフ状態を実現するもの。スイッチへの電気的なプログラムにより配線が繋がるオン状態か切れるオフ状態を設定できるため、LSI製造後でも回路の再構成と機能の変更が可能なほか、オン・オフの接続状態を保持するための電力が不要という特徴を持つ。
今回開発された技術は、スイッチ層に、配線の切り替えと論理回路の機能の切り替えの両方を行うNanoBridgeを併置する一方、論理回路層に、NanoBridgeをスイッチ層に多用することで論理回路の面積を縮小できる独自の回路方式を採用。これらを積層構造とすることで、従来のSRAMスイッチを用いた再構成可能回路と比べて、チップ面積と動作時電力を1/4に削減することに成功した。
また、ポリマー型固体電解質(PSE)を開発しNanoBridgeに利用することで、固体電解質としたNanoBridgeを、スイッチ層のCu配線内に32×32個搭載したクロスバースイッチを実現。PSEの均一な金属原子移動特性により、スイッチをオフからオン状態に切り替える際の電圧のバラつきを低減し、回路書き換え用選択トランジスタを不要とした大規模クロスバースイッチの動作を実現した。
クラウドコンピューティングの浸透が進むと、情報通信機器の増加による消費電力の増大が問題となり、それを解決するための手法として、ソフトウェアではなく、低電力で再構成可能なLSIをサーバのアクセラレータに用いることが検討されている。しかし、従来の再構成可能回路では、スイッチのオン・オフ状態保持のための待機電力が大きく、サーバの消費電力低減には限界があったほか、回路面積が大きいため、信号遅延や動作時電力の低減が困難であった。
NECは以前から、不揮発再構成用スイッチとしてNanoBridgeの研究開発を進めてきていたが、今回の成果を持って初めて回路としての動作に成功したこととなり、実用化に向けた道筋が開かれたこととなる。そのため、同社ではNanoBridgeの早期実用化に向けた研究開発を進めていく方針を示している。