九州工業大学 大学院生命体工学研究科の早瀬修二教授と新日鐵化学による研究グループは、「色素増感太陽電池」に、独自の円筒型セル構造を用いることで耐久性を向上させることに成功したと発表した。
色素増感太陽電池は1991年にスイス・ローザンヌ工科大学のグレッツェル教授により開発された従来のSi結晶系太陽電池とは異なった組成を持つ太陽電池。酸化物半導体と有機色素からなり、塗布式による作製が可能であるため、低コストでの製造が可能という特長を持ち、現時点でのエネルギー変換効率の最高値(1cm2以上のセルでの認証値)は約10.4%(標準太陽光基準)となっている。
しかし、電解液に酸化還元対として、ヨウ素およびこれを溶解する極性有機溶剤を使用するため、接着剤などを利用した封止方法では電解液漏れが生じ、耐久性が得にくい問題点があり、これを解決する方法として、ヨウ素を含む電解液に溶けにくい高分子材料による封止剤や、ガラスによる融着などの封止方法が研究されている。
今回、研究グループでは、板型色素増感太陽電池は封止に必要な面積が大きいことに着目、これを小さくするセル構造が必要であると考え、セル構造を円筒型にし、端部の封止構造を発電面積に対し相対的に小さくすることで、電解液の封止性が向上し、耐久性が高くなることを見出した。円筒型セルでは、円筒管端部への入射角度が小さくなり発電量が低下することが危惧されたが、円筒管端部で光がガラス管内部に屈折する効果があることから、発電量の低下は認められなかったという。
今回開発された「円筒型色素増感太陽電池」は以下の特長を有している。
- 受光面に対して電解液を封止する部位の面積が、平板型セルに比べて小さい
- 光の入射角の影響を受けにくく、散乱光による発電性能が高い色素増感太陽電池を円筒型にすることで、管端部の光が内部に屈折し、発電量が低下しない
- 透明導電膜を用いないセル構造にすることで、Inなどのレアメタルを使用せずにセルが作製できるため、製造コストの削減が期待される
- 簡単な封止構造で、耐久性を大きく伸ばすことができる。室温で約70日間(約1700時間)、効率を維持できている
- 九州工業大学で直径6mm、長さ30mmのセルを試作、動作確認を行ったほか、新日鐵化学にて直径30mm、長さ200mmの円筒型色素増感太陽電池を開発、製品化に近づけた
なお、研究グループでは今後、円筒型金属酸化物半導体電極の作製方法の改良および電極加工方法の最適化を図ることで、変換効率向上を目指すとするほか、セルの耐久性評価をJIS規格に合わせて評価する予定としている。