石川県金沢市を舞台とするメディアアートとクリエイターの祭典「eAT '11 KANAZAWA(イート・イレブン・カナザワ、以下eAT'11)」が2月4、5日に開催された。最終回となる後編は、eAT名物の「夜塾」についてお届けしたい。
熱を伝えるために、熱を感じたくて
金沢市民芸術村から車で約50分。竹久夢二が笠井彦乃との至福の日々を過ごしたことでも有名な市内の温泉といえば金沢湯涌温泉だ。eAT名物の「夜塾」は、ここ湯涌の老舗旅館「かなや」で行われる。
1週間前、北陸地方は大雪に見舞われた。金沢市内といえど山奥に位置する金沢湯涌もその豪雪の影響は大きく、eAT'11の開催がもし1週間早かったら、開催そのものが危ぶまれたところだった。
さて、セミナーを終え、この夜塾に参加する一行は総勢150余名。数台のバスに分かれて雪深き湯涌温泉へと向かった。夜塾はeATの名物プログラム。フォーラム、セミナーに登壇したクリエイター、アーティストとともに、夜を通して語り合うことができるまたとない機会である。
夕食後、参加者がかなやの大広間に集まりだす。温泉からまだ上がってこない講師陣を待つ間、なぜか作曲家の田中公平氏がノリノリで前説を始める。皆リラックスした表情である。
全員が揃ったところで夜塾スタート。まずは金沢市産業局事務局から挨拶があり、eAT実行委員のMCで恒例の大プレゼント大会が開始された。景品は実行委員含め、歴代の講師陣や関連企業から提供された豪華なものから逸品までさまざま。番号が読み上げられると、感激のあまり飛び跳ねる参加者も見られた。憧れの講師から直接手渡されれば、うれしさもひとしおだろう。
その後、3つのセミナー講師を囲む形でグループ討論会が始まった。セミナーの場では聞けなかったことから進路相談まで、参加者は各々の質問を直接講師にぶつけていく。それ対して、一つ一つ真剣に真摯に答えていく講師陣。このやりとりが、明け方まで続いた。
このパワーはいったい、どこからくるか? 講師も参加者もまるでパワースポットにいるかのように映ってみえる。活き活きとしている。
いつかこうなりたいと思う憧れのアーティストやクリエイターと、同じ空間・同じ時間が共有できる機会はなにものにも代えがたいだろう。参加者の気持ちが講師に伝わり、ごく自然に講師は彼ら彼女らの気持ちに応えていく。
つまりは互いに互いの熱を感じ、いつのまにかどちらもがそのパワーを受けているようで、なるほど、これが夜塾であり、金銭じゃない価値がこのeATには存在しているというのが、取材後の率直な感想である。
最後に1つ、記しておきたいことがある。eATはこれで15回目の開催だが、その運営は市職員、実行委員、そして多くのボランティアスタッフが尽力してこそ続けられているといっても過言ではない。年間を通じて活動をするためには相応の費用がどうしても発生する。しかしながらこのご時世、いくら北陸の中心地金沢市といえど、なかなか思うにままならないことは多いと聞く。
どんな芸術も才能も、人の努力があってこそだ。長く続けなければ文化も人も育たないだろう。今となっては国内に類を見ないこのeATが、来年以降も続くことを願うばかりだ。
(Mac Fan編集部)