毎日新聞で連載中の人気実録漫画『毎日かあさん』(西原理恵子著)が実写映画化された。コミカルなタッチで「ある家族の日常」を描いたこの作品を映画化した小林聖太郎監督に話を訊いた。

この作品では、「映画の禁じ手」をあえてやった

小林聖太郎
1971年、大阪府出身。演出助手として『ナビィの恋』、『69 Sixty nine』、『パッチギ!』、『リンダ リンダ リンダ』などの作品に参加。2006年、『かぞくのひけつ』で映画監督デビューし、日本映画監督協会新人賞、新藤兼人賞・金賞を受賞。最新作は2011年2月5日公開の『毎日かあさん』

――『毎日かあさん」は原作の世界観が確立されている作品なのですが、映画は小林監督のデビュー作『かぞくのひけつ』から地続きの作品という印象があります。

小林聖太郎(以下、小林)「前作を観たプロデューサーから声が掛かったのですが、家族モノという部分では、確かに近いものがあるかもしれません」

――実写化では、何が一番大変だったのでしょうか。

小林「原作があるといっても、いわゆるストーリー漫画ではないので、とにかく脚本では苦労しました」

――原作は小さなエピソードの連続で、明確に1話ごとという括りもなく、フラグメントで構成されています。

小林「それが原作の個性で面白さでもある部分です。映画化する時、ただ各エピソードを時系列に並べかえて、映画のストーリーとしてドラマチックに再構成し過ぎてしまうと、この断片的なエピソードの連続の中で、感情を揺さぶる言葉や絵の描かれたコマが急に来るような感じを失うのではないかと思い悩みました。原作の良さを活かすため、映画の禁じ手ともいわれる、『ダンゴ状にエピソードを連ねる』、『ナレーションを多用する』などを、この作品ではあえてやりました」

『毎日かあさん』

漫画家 サイバラリエコは、漫画の締切に追われる嵐のような日々の中で、ふたりの子供を育てつつ、元戦場カメラマンの夫 カモシダの生活の面倒をみていた。アルコール依存症でトラブルを何度も起し入退院を繰り返すカモシダは、サイバラと離婚。今度こそ禁酒を誓うのだが……

――確かにナレーションが多い映画ですね。

小林「原作の言葉の強さも魅力のひとつなので、それを何とか活かしたいと思ったのです。原作は西原さんの強い言葉の効果で、絵が活きるという部分があるので」

――確固たる原作があり、アニメ版があり、西原さんご自身もメディアに頻繁に登場しています。様々な西原さん像がある中で、映画ではどのように「サイバラ」像を作っていったのでしょうか。

小林「その部分は悩みましたね。実話の上に演じるふたりも元夫婦。何というか他人の家3軒くらいに、土足で上がっているような気分で監督していました。最初から着地点が見えているわけではなく、考えながら映画の家族像を作っていったという感じです」

――この作品は、小泉今日子さんと永瀬正敏さんという元夫婦が夫婦を演じるという部分でも話題となっています。

小林「僕の中で最初から、小泉さんはサイバラさん役にぴったりだと考えていました。永瀬さんは作品への献身の姿勢が凄い方なんです。なんというか映画でも単なる出演者という感じではなく、あくまで俳優部でスタッフの一員という感じなんです。このふたりの共演は、ワイドショー的な注目が集まってしまうという部分もありますが、元夫婦であることが何か演技で活かせるかもしれないという予感もありました」

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