日本アイ・ビー・エムは1月31日、同社の企業変革に関する記者説明会を開催した。今年100周年を迎えるIBMが「これまでどのようにして企業変革を成し遂げてきたのか」、「今後どのような戦略の下、変革を行っていくのか」について説明がなされた。
今回、説明を行ったのは、IBMで世界規模の変革を推進している責任者であるシニア・バイスプレジデント エンタープライズ・トランスフォーメーション担当リンダ・サンフォード氏だ。100年にわたり企業を維持するとともに、世界規模で業界トップの成長を記録してきた同社の企業変革のノウハウは聞く価値があるだろう。
同氏によると、2007年に「2010ロードマップ」を策定した際、1株当たりの利益を10~11ドルにするという目標が達成できるだろうかという意見もあったが、実際には2010年にロードマップの上限目標を上回る1株当たり11.52ドルの利益を実現した。
その要因は、「価値の高いセグメントへのリソースの再配分」と「成長市場への注力」である。同氏は価値の高いセグメントとして、「ビジネス・アナリティクス」「Smarter Planet」「クラウドコンピューティング」を挙げた。
同社は昨年、「2015ロードマップ」を打ち出した。その内容は、「成長戦略で収益を200ドル増加させる」「成長市場の収益を総収益の25%まで引き上げる」「生産性の増加により80億ドル増加させる」「1,000億ドルのフリーキャッシュフローを創出し70%を株主に還元する」といったものだ。
同氏は、これらを達成するための方策は「生産性の向上」と「売上増大への注力」と述べ、具体例を2つ紹介した。
1つは「アナリティクスへの投資」だ。同社はBAOなどアナリティクス関連のソリューションの販売を積極的に展開しているが、自社でもアナリティクスの有効活用を図っている。その1つが「Blue Insight Cloud」で、分析向けのクラウドを活用して成長市場やビジネス機会の発見や意見交換などを行っている。現時点で1ペタバイトのデータが格納されているという。
もう1つは「成長市場への注力」だ。成長市場に対しては、インフラ構築ではなく共通化されたサービスを展開していく。
同氏は変革のためのさらなる戦略として、「抜本的な簡素化と統合」を挙げた。「当社はこれまでプロセスのLean(無駄を省く)化を行ってきたが、これからは抜本的な簡素化を図っていく。抜本的な簡素化とは、価値のない活動や不必要な活動を排除し、その結果が出てきたリソースを成長市場に振り向けることを意味する」
例えば、営業業務において請求書の作成などの事務処理に取られる時間が多いせいで、顧客に割く時間が足りなければ、業務の簡素化を図ることで、顧客に対応するための時間を増やす。
また、これまでは縦割り組織となっていたため、顧客から見て同社のプロセスが複雑になっていたため、事業を統合することで「1(ワン)IBM」という姿勢を打ち出していくという。
同氏は、企業変革にとって不可欠な要素として、「ビジネスプロセス」「IT」「カルチャー」の3つを挙げた。ビジネスプロセスにおいては、合理化・効率化・ムダの排除を行うことが重要となる。また、ITはコラボレーションツールとして活用することで、生産性向上につなげる。
「3つの要素のうち、最も扱いが難しいのがカルチャー」と、同氏はいう。ここでいうカルチャーとは、変化をマネジメントしていくことを指す。世界中の顧客もこのカルチャーについて、同氏に質問をするそうだ。
同社は、6段階から構成される変化を管理するためのメソドロジーを開発し、それを活用している。メソドロジーは、「トップダウン型」、「ボトムアップ型」、「進化を図る評価システム」の3種類がある。トップダウン型は、6週間ごとに幹部でミーティングを開催し、データに基づいた議論を行うというものだ。ボトムアップ型は、チャットなどを介して従業員からのインプットを増やすというものだ。
あわせて、「長い時間をかけて、従業員に対し、企業変革の必要性を説明している。理解を促すことが変革を加速させる」と同氏。。
また、企業変革に伴う施策を実行するうえで、従業員がモチベーションを保てるよう、必要な評価システムも用意されている。先に述べたように、組織が横断的なプロジェクトになると、人事考課も難しくなってくる。そうしたプロジェクトにおいても、公平な評価が行われるよう、きちんと対策が講じられているというわけだ。自分の業績がきちんと評価されて嬉しくない人はいないだろう。
企業によって組織や戦略はさまざまであり、同社のやり方をすべて真似ることはできないだろうが、どの企業にとっても参考にすべき点は大なり小なりあるのではないだろうか。