AT&Tの日本国内事業の一部がIIJに譲渡されたことによって昨年9月に誕生した企業 IIJグローバルソリューションズ(以下、IIJグローバル)。同社はキャリアフリー・ベンダーフリーのネットワークアウトソーシングサービスを国内1,600社に提供しているが、その中でも特に重要拠点においては「キャリア・ダイバーシティ」(複数キャリアの回線を活用しネットワークを冗長化する仕組み)で"止まらない"ネットワークを提供している。今後は主力のWANを中心としたネットワーク・アウトソーシングサービス事業の海外展開を図ることなどを公表しているが、同社はそのための人材育成にも力を注いでいる。小誌では、同社社長の岩澤利典氏に話を聞く機会を得たので、その内容をお伝えする。
"日本の会社"になったことで社員の参画意識が高まる
同社の従業員数は現在約260名ほど。その内訳は、技術者が約半数となる110名で、80名ほどが(プリセールスも含む)営業部隊に属している。
技術者の数の相対的な割合が高くなっているが、同社は「技術本位」の会社ではない。岩澤氏が強調する同社の強みは「経営の観点で顧客が抱える課題を解決するソリューションの提案力」だ。
事業のグローバル展開を図る以上、そこでは日本語だけではなく、英語力も要求される。しかも、同社が求める「英語力」とは、プロジェクト管理や顧客との交渉・提案などをスムーズに実行できる、本当の意味での英語によるコミュニケーション能力だ。
前身が外資系企業であったため、もともと社員のバイリンガル率は一般企業に比べれば高い状況だったが、それでも岩澤氏の判断基準では「まだまだ」だという。
そこで同社では今月末から、従来の英語研修制度を体系化し直し、今月末から新たな英語研修制度としてスタートさせる。
「TOEICスコア 730以上が受講条件」とされるため、一般的な日本企業の感覚としてはハードルが高いかもしれないが、これは"真のグローバル人材"を育てるための最低必要条件と言えるかもしれない。
その具体的な内容は以下の通りだ。
- 実際のプロジェクトを想定したロールプレイング形式の研修
- 顧客に対するプレゼンテーションを想定したロールプレイング形式の研修
- 来客や海外出張時における円滑なコミュニケーションを実現するための「会話力」研修
これらは営業部隊だけを対象としたものではない。岩澤氏は、「IIJグローバルという"日本の会社"になってから、会社の戦略に対する個々の社員の参画意識が高まっていることを実感している」と言うが、所属部門・担当業務にとらわれずに仕事の幅を広げることの重要性を指摘している。
ファンクショナリゼーション(機能別組織化)が徹底した外資系企業の日本法人という立場だった従来の組織では、いわゆる"タテ割り"の弊害によって意思決定に迅速性を欠くといった悩みを抱えていたとのことだが、新会社(IIJグローバル)に生まれ変わったことで、そのような課題が解決されつつある。
その効果は社内だけではなく、「スピーディになった」という顧客からの声にも現れているという。
社内と顧客との対話を重視する
岩澤氏は新会社になってから、社員との対話の場である「ラウンドテーブル」を開催している。
そこでは会社の方向性に関する提言が行われるなど、事業への参画意識が高まった社員の意見を吸い上げるための有用な機会となっており、岩澤氏は「これまで20回近く実施したが、今後も継続的に実施していきたい」という考えを持っている。
また同社は、「顧客と一緒になって課題の洗い出しやマイルストーンの設定などを行い、ソリューションを明確化するための"ジョイントセッション"を行う」(岩澤氏)ことを目的とした「セッションルーム」を社内に設置する予定だ。
岩澤氏によれば、そこで何より重要になってくるのは「ファシリテーション能力」であり、そのための人材を育成するための研修プログラムも目下、自社で開発中であるという。
市場ではクラウドサービスが普及期を迎えつつある状況だが、岩澤氏は、実際には「どのように活用していいのかがわからない」といった悩みを抱えている企業が多いと語る。
クラウドと(クローズドな専用線という意味での)WANといった観点では、岩澤氏は「当面はこれらがハイブリッド型で運用されることになる」という考えとのことだが、そのようなインフラ設計面の話だけではなく、「コーポレートガバナンスやセキュリティなどを含めた、トータルな"ソリューション"として提案することが当社の責務であり、このことは今後ますます重要になってくる」としている。
ワイヤレス通信で変わる「キャリア・ダイバーシティ」
冒頭にも述べた同社の基本戦略でもある「キャリア・ダイバーシティ」だが、今後はその提供形態が大きく変わる可能性があると岩澤氏は語っている。
現在の同社のキャリア・ダイバーシティは、異なる複数キャリアの回線を顧客に提供して冗長化することで"止まらない"ネットワークを提供するものだが、今後はWiMAXやLTEといった「次世代高速無線通信」と呼ばれるワイヤレス回線も同社のキャリア・ダイバーシティに組み込まれる可能性がある。
岩澤氏は、「ある意味で、ワイヤレスこそキャリア・ダイバーシティの本命」との考えを示しているが、これが実現すればさらに多くの回線を提供することで"止まらないネットワーク"を磐石なものにすることが可能なはずだ。
これまでは(AT&T自身が)通信キャリアでもあるという立場でもあり、ビジネス上の制約があったとのことだが、IIJグローバルにはその制約がないため「回線を持たない」ことの強みをフルに生かせるという。
クラウドとワイヤレス。市場をとりまく変化の流れの中で同社は、顧客のニーズを見極める従来からの提案力をベースに"真のグローバル人材"を育て上げて国内外におけるビジネスの拡大を図る。
IIJグローバルソリューションズ 岩澤社長がビジネスパーソンにお勧めする一冊
「道をひらく」 松下幸之助著 (PHP研究所)
悩み・迷いを解決するためのヒントが満載の大ベストセラー書籍
多読家でもある岩澤氏は、読み終えた本を処分してしまうことも多いという。「そんな中で自宅に残っている本は"良い本"ということになるでしょう」と語る岩澤氏にご紹介いただいたお勧めの1冊は松下幸之助氏の感慨が一篇一篇つづられた「道をひらく」(PHP研究所)。初版は1968年(昭和43年)。累計400万部を超えているとされる同書は、決断に迷ったり、逆境に置かれたり、人間関係などに悩んだりした時にめくってみると、どこかに解決のためのヒントが見つかる。岩澤氏も、時々同書をめくっているそうだ。なお、続編「続・道をひらく」では、松下幸之助氏の感慨が季節ごとにまとめられている。