京セラは1月21日、ソーラーエネルギー事業の説明会を開催し、同社代表取締役社長の久芳徹夫氏が、グローバルな生産体制の拡充や信頼性を追求する事業方針、市場投入する新製品について説明した。
太陽電池市場の拡大に対応し生産体制を拡充
京セラ 代表取締役社長 久芳徹夫氏 |
太陽電池市場の動向について、最大市場である欧州ではドイツを中心とする旺盛な需要があり、また米国や日本では導入補助政策の影響から、同社では堅調な拡大を見込んでいる。その結果として、同社では2010年度の太陽電池市場に前年比2倍の14.3GWになると予測している。今後も各国政府の導入補助政策などにより市場が活性化し、5年後の2015年度には32.4GWまで年平均成長率(CAGR)18%で拡大すると見ている。
太陽電池の市場拡大に対応するため、グローバルな生産体制の拡充を進める。同社は多結晶シリコン(ploy-Si)型太陽電池を生産しているが、シリコンの鋳造からセル、モジュールに至る一貫生産体制を構築している。
太陽電池モジュールは、三重県の三重伊勢工場、中国、メキシコ、米国、チェコの世界5拠点で生産しているが、このうち中国の天津工場で建設を進めていた新工場棟が完成し、1月17日に竣工式を行った。新工場は稼働中の天津既存工場の約3.5倍の規模となり、2010年春をめどに既存工場棟から新工場棟に生産機能を完全移管し本格稼働を開始する。新工場の生産容量は360MW/年となる。
またチェコでは、工場の敷地内に2棟目となる新工場棟の建設を開始した。新工場は2011年秋に完成する予定で、生産容量は360MW/年となる。既存のチェコ第1工場と合わせると560MW/年となり、同社の太陽電池モジュールの生産拠点では世界最大規模となる。
太陽電池セルは、滋賀県の滋賀八日市工場と滋賀野洲工場の国内2拠点で生産している。2010年度のセルの生産は、前年比1.5倍の600MWを達成できる見通し。さらに2011年度には800MW、2012年度には1GWの生産を行う計画で、世界市場のCAGR18%の成長を上回る増産を進める方針。
セルの生産能力については、滋賀野洲工場が2010年8月に稼働を開始したばかりでキャパに余裕があるため、現状の建屋に設備を導入することにより1GWレベルまでは対応できるという。
性能・品質に裏打ちされた信頼性を追求
近年の太陽電池市場は世界規模での旺盛な需要を背景に、新興メーカーが低価格を武器に台頭し、価格重視の市場が急速に拡大している。一方で太陽電池システムへの投資回収の観点から太陽電池の長期信頼性を重視する市場も厳然と存在し、市場は二極分化の様相を呈している。しかし今後さらに市場が拡大・成熟する際には、イニシャルコストだけでなく、トータルコストを重視せざるをえない方向に向かうと、同社では考えている。
久芳社長は「太陽電池は長期にわたり安定して発電する性能・品質を備える必要があり、大競争時代においては性能や品質に裏打ちされた信頼性の追求が重要なポイントになる」と語った。中国のようにコスト重視の市場でも、一部で高信頼性のニーズはあり受注実績があるという。
また、品質を追求する取り組みとして、独TUV Rheinlandの新たな長期連続試験において、同社の量産型太陽電池モジュールが世界で初めて認証を取得したことを発表した。今回の長期連続試験は、IECの基準に基づく従来試験より厳しい条件を課すもの。従来は、試験ごとに別々の太陽電池モジュールを使って検証していたが、今回はより自然環境に近い状態で性能・品質を検証するため、1枚の太陽電池モジュールを使って、高温高湿、温度サイクル、結露凍結、バイパスダイオードの4つの試験を約1年間にわたり連続的に実施した。この新試験において同社製品は4項目のすべてにおいて基準値をクリアし、テュフの認証を取得した。
なお、性能については海外の導入事例を紹介した。スペインとタイの大規模太陽光発電所に供給した同社のpoly-Si型太陽電池は、発電事業者が設置前に設計・予測した出力値よりも実際の発電量が上回ったという。スペイン・サラマンカでは約19%、スペイン・ドゥルシネアでは約13%、タイ・コラート地方では約16%、3カ所平均で約16%上回る発電出力値となった。特にタイでは、高出力値の実績がベースとなり、204MWの大型受注に繋がったという。
同社では今後も技術レベル向上に努め、性能と品質に裏打ちされた信頼性を追求していく方針。次世代太陽電池について研究開発ではさまざまな太陽電池を研究しているが、まずは現在のpoly-Si型を中心に考えており、単結晶Si型への展開は考えていないという。
国内向けに新製品を投入
さらに国内向け新製品として、公共産業用と住宅用モジュールをそれぞれ発表した。
公共産業用新製品は、2010年末に平成22年度の環境大臣賞を受賞した高出力タイプの太陽電池モジュールを本格的に市場投入する。同製品はpoly-Si型太陽電池セルを60枚使用し、国内最高クラスの出力238.1Wを実現している。1枚当たりの出力が向上したことで、発電所など大型システムを設置する際の設置枚数や工数などを削減し、システムトータルのコストを低減できる。
住宅用新製品は、独自の「ラックレス工法」を採用した、住宅用太陽光発電システム「ECONOROOTS typeU」を開発し、2011年1月20日より市場投入した。新製品は架台を使用せず独自開発の金具を用いて太陽電池を屋根に設置する新システム。太陽電池モジュールの搭載容量を最大50%向上させる他、設置に要する部材点数の削減、屋根への荷重負担の約15%の軽減、施工工数の削減が可能となった。同製品を積極的に市場投入していくことで、搭載容量を拡大するニーズに応える。