東北大学の研究グループは、住友金属鉱山との共同研究により、ユーロピウム(Eu)をドープしたシリケートからなる高輝度な蛍光体の開発に成功したことを明らかにした。同研究は高輝度白色LEDへの応用が期待されており、今年度スタートした新学術領域:融合マテリアルプロジェクトの公開シンポジウム(2月2日)において、研究成果が発表される予定。

白色LEDは青色もしくは近紫外LEDに蛍光体の発光を組み合わせることで白色発光を得る光源であり、白熱灯や蛍光灯に置き替わる環境調和型の光源として注目されている。現在市販されている白色LEDは、主に青色LEDに黄色蛍光体であるセリウム(Ce)をドープしたイットリウムアルミニウム酸化物(YAG:Ce)を組み合わせたものだが、多種多様な用途に適した光源とするためには、白色LEDの高効率化および自然な色合いの表現(高演色性)が課題となっており、青色もしくは近紫外光で励起可能な高輝度蛍光体の開発が求められている。

蛍光体を高輝度化するためには、ユーロピウムやセリウムなど発光中心となる賦活剤をホスト材料に均一に分散させることが不可欠。ケイ素(Si)を主要構成元素として含むシリケートには蛍光体として機能するものが多く知られているが、その合成手法には賦活剤の均一分散には不利な固相反応法が主に用いられてきた。

今回の高輝度蛍光体の開発には、同大多元物質科学研究所の垣花眞人教授らによるグループが独自開発した水溶性のケイ素化合物(WSS:Water Soluble Silicon)を利用している。WSSは従来の水溶液プロセスによるセラミックス合成手法をシリケートに適用可能にするだけではなく、他のイオンを内包したゲルを形成する特徴を利用したゲル化法など新規のシリケート合成法を可能にしており、今回の研究においても水溶性のケイ素化合物を利用した蛍光体合成が重要な役割を果たしている。

例えば、ユーロピウムをドープしたストロンチウム-バリウム-シリコン酸化物((Sr,Ba,Eu)2SiO4)は青色LEDで励起され黄色発光を示す蛍光体であるため白色LEDへの応用が期待されている蛍光体の1つだが、同研究では、WSSを用いて水溶液プロセスを利用することで、市販の黄色蛍光体であるYAG:Ceに比べて約1.5倍の蛍光強度(励起波長:445nm、発光波長:563nm)を示す高輝度な(Sr,Ba,Eu)2SiO4蛍光体の合成に成功した。また、WSSを利用した水溶液プロセスを用いることで、(Y,Ce)2SiO5や(Zn,Mn)2SiO4など数多くのシリコン含有蛍光体の合成および高輝度化にも成功している。

高輝度シリケート蛍光体の蛍光スペクトル(実線:発光スペクトル、破線:励起スペクトル)

また、水溶液プロセスを利用したセラミックス合成では、数多くの組成の材料合成を一度に行う「並列合成法」による材料のスクリーニングを簡便に行うことが可能となる。同研究では、WSSを用いた水溶液プロセスによる並列合成法により新規蛍光体材料の探索を行うことで、290から420nmの近紫外励起により青緑色(480nm)に発光するユーロピウムをドープしたバリウム-ジルコニウム-シリコン酸化物蛍光体((Ba,Eu)ZrSi3O9)の開発に成功。(Ba,Eu)ZrSi3O9蛍光体は、405nm励起時の内部量子効率が67%を超える高効率な蛍光体であることから、近紫外LEDと組み合わせることで白色LEDへの応用が期待されるという。