三菱電機は1月20日、太陽光発電システム用パワーコンディショナ向けにSiCデバイスを適用したパワーモジュールを試作開発したことを明らかにした。SiCデバイスの特性を活かし、業界最高クラスの電力変換効率と低損失を実現したと同社では説明している。
SiCパワーデバイスの開発を推進
SiCのパワーデバイスは、従来のSiのパワーデバイスに比べて、低損失化、高パワー密度化、小型化、高耐圧・大容量化を実現できるため、次世代パワーデバイスとしてパワーエレクトロニクス機器へ導入が期待されている。
三菱電機 先端技術総合研究所 パワーエレクトロニクスシステム開発センター センター長 木全政弘氏 |
SiCパワーデバイスの開発方針について、同社先端技術総合研究所 パワーエレクトロニクスシステム開発センター センター長の木全政弘氏は「低損失性をはじめとするデバイス性能を最大限に活用することと、特定分野だけでなく家電から鉄道車両まで広範囲な分野へ適用するため性能・信頼性を向上させることに注力し、開発を進めている」と語った。
同社のSiCパワーデバイスの開発動向としては、まず要素技術開発として、インバータにSiCデバイスを導入した際の実証を行ってきた。次に個別機器への展開として、SiCインバータを鉄道車両向けに実証した他、エアコン向けSiCインバータを製品化してきた。そして今回、太陽光発電システム用のパワーコンディショナにSiCパワーデバイスを導入した。
業界最高クラスの変換効率を達成
試作開発品は、従来のパワーコンディショナで用いられているSi IGBTデバイスをSiC-MOSFETとSiC-SBDの組み合わせにより置き換えるもの。電力を制御するトランジスタにSiC-MOSFETを、ダイオードにSiC-SBDを適用し、定格1200V/75AのSiCパワーモジュールを開発した。
パワーコンディショナにおいて、太陽光発電セルで発電した直流電力をインバータ回路に適した直流電力に変換するチョッパ部分と、直流電力を商用の交流電流に変換するインバータ部分をSiCパワーモジュールで構成した。これにより、単相200V/5kWのパワーコンディショナで国内最高クラスとなる電力変換効率98.0%を達成した。
なお98.0%の電力変換効率は、現在の普及品である同社製パワーコンディショナ「PV-PN50G1」に対して2ポイント以上の高効率化となる。この高効率化は、同社の試算によると年間の電気代で約4500円の節約に相当するという。
電力損失を従来品に対して半減
試作開発品では、SiCデバイスの高速特性を活かしスイッチング損失を低減した他、高耐圧特性を活かして導通損失を低減した。さらにACリアクトルなどの周辺の回路構成部品を見直し最適化を図った。これにより、従来のSiデバイスのパワーモジュールに比べ、5kW定格出力時の電力損失を半減した。
3年以内をめどに製品化
現時点では研究部門における試作段階であるため、製品化の時期は未定という。信頼性や周辺回路を含めた製品としての開発に時間を要する見込みだが、木全氏は「3年以内には製品化したい」と語った。
今後の開発について、パワーコンディショナの高効率化には、(1)階調制御による回路の工夫と、(2)パワーデバイスの性能向上の2通りの方法がある。同社ではすでに階調制御型インバータで変換効率97.5%を達成しているが、今回の試作開発品では階調制御を用いず、SiCによるデバイスの性能向上で98.0%を達成した。今後は階調制御型インバータにSiCパワーデバイスを搭載することも考えられるが、2つの方法の組み合わせはそれぞれの効果の単純な足し算とはならず、何らかのプラスにはなるものの組み合わせによる効果は未知数という。