イリノイ大学のブダキアン助教授のグループは京都大学の前野悦輝教授らとの共同研究で、ルテニウム(RU)酸化物(Sr2RuO4)の超伝導体の中において、従来の半分の大きさの磁束量子が存在することを発見した。単一の物質中で半分の量子化磁束が報告されたのは初めてのこと。「Science」の2011年1月14日号に掲載された。
電気は電子のもつ負電荷の大きさを最小単位として振る舞うが、磁気は連続な量でどこまでも細かくすることができると考えられている。しかし、超伝導体の中では磁気は「磁束量子」が最小の単位になることが知られている。これが「磁束の量子化」で、磁束量子は直径10μmの輪を通過する地磁気程度の大きさであり、超伝導体のこの性質は高感度磁気センサとしてすでに精密磁気測定装置や脳磁計などに広く応用されているほか、電圧の標準を決めるのにも使われている。
Sr2RuO4は前野教授らが1994年にその超伝導を発見したもので、その後の研究成果により、「スピン三重項超伝導体」として知られるようになっている。
超伝導体の中では電気を運ぶ電子が2個ずつ対になっており、スピンに着目すると、従来の超伝導体では対をつくる電子同士でスピンが互いに反対向きの「スピン一重項」になっているが、ルテニウム酸化物超伝導体では電子対のスピンが同じ向きの「スピン三重項」になっていることが確実視されている。
電子は電気を運ぶ「電荷」と磁石の性質をもつ「スピン」の性質を持っているが、従来の超伝導体では電子のスピンの性質は失われていた。しかし、スピン三重項超伝導体では、電子の流れとスピンの向きの両方の情報を持つため、電流に関係した磁束の量子化は、条件によっては半分の大きさで済むこととなる。
今回の研究では京大で作製した超伝導体の結晶を2000nm程度に小さくして500nm程度の穴をあけることにより、半分の磁束量子ができることを実証したもので、超伝導の新しい性質を見出すとともに、ルテニウム酸化物で起こる超伝導がスピン三重項であることの強い確証となりうるという。
また、この性質は量子コンピュータの基本素子としての応用のほか、スピン流を利用したスピントロニクス電子デバイスへの応用も期待されるという。