リコーが開催する「RICOH&Java Developer Challenge 2010」の最終選考会が1月13日、都内にて開催された。同コンテストは、前年まで「RICOH&SUN Java Challenge」と銘打たれて実施されてきたもので、3回目の開催となる今回はSun MicrosystemsがOracleに買収されたこともあり、これまでのSun Microsystemsの協賛から、オラクルが協力企業として参加する形で開催された。

ルール自体はこれまでと変更はなく、JVM(Java Virtual Machine)を搭載したリコーのマルチファンクションプリンタ(MFP)上で、組み込みJavaプログラミングによる「ビジネスアプリケーション」を学生の自由な発想のもとに開発を行い、その成果を競うというもの。参加資格は国内大学の学生と指導教官となっており、参加学年の制限などはないのも前回と同様となっている。

今回の大会実施期間は、2010年3~6月にコンテスト参加の募集を実施、同7~9月の間にプログラムを開発し、同10月の1次選考を行った。参加校数は26校、参加チームは前回より9チーム増加し35チームとなり、このうち8チームが1次選考を通過した。これら8チームには、2011年1月の最終選考でのプレゼンテーションに向け、リコーよりMFPが貸し出され、各チームはそれを用いて実際に動くプログラムを開発、調整を進め、最終選考に挑んだ。

参加35チームのうち8チームが最終選考に勝ち残った

最終選考に残った8チームとシステム名は以下のとおり。

大学名 チーム名 システム名
南山大学大学院 NISETO フッくん
広島市立大学大学院 Project ACP Wandroid meets R
東京農工大学工学府 PEPERMANs Digilog Assistant
情報科学専門学校 iF Kids Craft
和歌山大学大学院 KROSIO SIAWASE
東北大学大学院 snop 今城先生
北海道情報大学大学院 えべチュン飼育係システム班 INS(imagio Network Service)
産業技術大学院大学 TEAM AIIT 2010 らんちょんMAPシステム

最終選考では1チームに15分のプレゼンテーション時間と10分の質問時間が与えられる。採点は、Javaプログラミングの内容は元より、プレゼンテーション能力、システムの趣旨、システム名など基準とし、筑波大学大学院システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻の北川博之教授を委員長とする11名の審査員がそれぞれの判断に基づいた点数をつける。

会場風景

前に並んでいる11名が今回の審査員

実際に用いられたリコーのMFP「imagio」。チームによっては2台のimagioを連動してみせたりもした

実際にプレゼンでは各チームごとに、スマートフォンとの連携やユーザーフレンドリを意識したインタフェース、Google Appとの連携など工夫を凝らした発表が行われ、説明に手間取ったり、ネットワーク環境が開発時と違うために上手く動いてくれなかったり、といったことがあった一方、司会の笑いのつぼに嵌ってしまった小ネタを仕込んで場内を和やかにしたり、という場面も見受けられた。

今回の大会では、「グランプリ」と「準グランプリ」のほか、主催者であるリコーによる特別賞「リコー賞」が用意された。また、従来の「サン・マイクロシステムズ賞」が無くなった代わりにサプライズとして「オラクル賞」が用意され、同賞には産業技術大学院大学「TEAM AIIT 2010」の「らんちょんMAPシステム」が選ばれ、3回目の参加で初めての入賞となった。また、リコー賞には、唯一、専門学校から最終選考まで勝ち残った情報科学専門学校「iF」の「Kids Craft」が選ばれ、準グランプリには東北大学大学院「snop」の「今城先生」が、グランプリには和歌山大学大学院「KROSIO」の「SIAWASE」がそれぞれ選ばれた。

左からグランプリ、準グランプリ、リコー賞の盾と副賞。オラクル賞はサプライズのため、展示されていなかった

オラクル賞を獲得した「らんちょんMAPシステム」のシステムを簡単に説明すると、地域への密着とリアルタイムのメニュー情報の提供を意識した昼食を気にするビジネスマンや学生に向け、固定店舗や移動店舗の本日のメニューなどをMFPを通じて提供しようというもの。システムそのものは、メニュー配信にこだわらず、幅広く配信可能なため、ガソリンスタンドの価格情報や休日の診察受け入れが可能な病院などの情報、イベントなどを配信することも可能。Google App EngineやGeocoding、Slim3、Yahoo Map、Twitterなどさまざまな技術を組み合わせて提供するシステムとなっており、審査員の中でもその外部アプリの統合化とトータル技術点が高く評価された結果の受賞となった。

「らんちょんMAPシステム」の概要

リコー賞を獲得した「Kids Craft」のシステムを簡単に説明すると、テーマは「複合機×紙工作」というもので、電子書籍が注目を集める中、紙媒体の価値とは何かを検討。紙でしかできないものということで「紙工作」の情報などを幼稚園や保育園などで共有することを目的としたサービス。手間やコストをかけて紙工作のコンテンツを手配する労力を、MFPを介してアップロード、ダウンロードできるようにし、パソコンに詳しくない保育士でも気軽に必用なときに必用なコンテンツを入手できるようにしたもの。実際のアプリ開発においては、幼児教育における文献からの紙工作の幼児期における重要性を確認するという背景付けから、実際の保育園でのテスト、保育士からの評価などを受けており、審査員からも「実際に使えるものを意識した作り、そして紙を用いるということを重視したこと」が評価されたことが説明された。

「Kids Craft」のシステム概要

準グランプリを獲得した「今城先生」のシステムは、「imagioによる塾運営システム」と銘打たれたもの。ちなみに今城という名称は実在の人物から頂戴したとのこと。MFPで何を行うかというと、Kids Croftと同様、教育の現場で紙を活用しようというもので、こちらのターゲットは小学校低学年を対象としたフランチャイズ学習塾となっている。実際の活用方法は、答えを書いた答案用紙を採点し、スキャン送信し正誤情報の登録を経て、新たな問題作りに生かそうというもの。これにより、個々人における習熟度の差に対応する問題提供を行わせようという試みとなっている。審査員の評価としては、「大抵、良いソリューションというものは、ポイントソリューションとなってしまうが、このソリューションはビジネスモデルを広く捉えた発表内容」であったことが最も大きな評価ポイントとなった。

「今城先生」の概要

そして、グランプリを獲得した「SIAWASE」は、審査員から「MFPの新しい活用法を提案した」との評価があったほか、「プレゼンも上手く、エビデンス(証拠・根拠)を出すことによる説得力もあり、そうした面でも高く評価された」ということであった。また、今回はチーム間でどのチームが良かったのかの投票も実施、SIAWASEはこちらも1位に評価され、参加者、審査員ともに高い評価を受けたものとなった。

肝心のシステムの中身は、職場結婚の比率が1970~72年から2000~02年の30年の間で半減したが、その理由の一端をおせっかいな上司が減ったことにあり、その代わりをMFPに行わせようというもの。その手助けとして、MFPに手相をスキャンさせ、「仲の良い夫婦の手相は良く似る」と言われる点から、その共通点を調べ、相性をピックアップし、紹介を行い、MFPを通じて、匿名で文通を行い(文通手法は、MFPのキーボード、手書きのスキャン、手で形作るイメージのスキャンの3種類)、お互いにやり取りで意気投合すれば、本名とメールアドレスを同意の元に公開するというもの。なお、相手選択時は複数の手相が出てくるが、実際に文通を行う相手はその中の1人だけ、2人、3人と掛け持ちすることはできないシステムとなっている。

「SIAWASE」の概要

グランプリに輝いたKROSIOは、表彰式の際、「正直、リコー賞を貰うつもりでおり、他のチームの名前が呼ばれた時には終わったと感じていたがグランプリとなって驚いている。昨年は1次予選敗退で悔しい思いをしたので、どうしても最終選考に残りたかった。こうして栄誉ある賞を得られる機会が与えられてうれしい」とコメント。また、指導教員である同大システム工学部 デザイン情報学科の満田准教授も、「技術力が高いところが多く差異が得づらい中、そこをプレゼンや仕様書などでその技術をいかに見せていくか、それがデザイン情報学科の意義であり、それをきちんと評価していただけた結果」と、実際の大学での教育が成果に結びついたことを強調した。

北川教授よりグランプリの盾と副賞をもらうKROSIOのメンバー(左)と、その指導教官である和歌山大学の満田准教授(右)

今回のグランプリ受賞結果について、審査委員長の北川教授は8チームそれぞれが高い技術力とプレゼン能力を持っていたことを評価、「全体的にレベルが高く、意欲的なものばかり。全体的には紙への回帰が2校、高齢化や少子化対策、コミュニケーション支援が3校、ビジネス支援が2校、システム、分散アプリというMFPが分散する中でのシステム開発が1校。それぞれが特徴のある成果を披露していた。やはりチームとして1つの目標に向けた活動を行うという苦労を乗り越え、やってよかったと思う人も多くいると思う。日本は人材で戦っていかなければならない。リコーの主催するJava Developer Challengeは元々欧州が発祥。あちらの優勝者はJavaOneでの成果披露スピーチができたりする。日本のこの大会も、世界の中で高い技術を示す国として、発信していけるものとなるよう、これからも若い世代に頑張っていってもらいたい」とした。

総評を語る審査委員長の北川教授

なお、リコーでは、2011年も引き続き同様のコンテストを開催する予定としており、これまでと同様3月中にはその概要を発表、募集を開始することを予定している。

参加チーム全員と審査員の集合写真