日本ヒューレット・パッカードは1月12日、アプリケーション開発の品質管理およびテスト自動化を実現するソフトウェアプラットフォーム「HP Application Lifecycle Management 11(以下 ALM 11)」を中核とした「ALMソリューションズ」全10製品を発表した。ALMソリューションとしては、2006年に買収した旧MercuryのBTOポートフォリオ統合以来、最大規模のリリースと位置づけられており、日本HP 執行役員 HPソフトウェア・ソリューションズ統括本部長 中川いち朗氏は「この分野に関してはコンペティターはいないと思っている。むしろ、これから市場を作っていくことがHPの役割」と語る。
ALMソリューションズに含まれるのは以下の10製品。
- HP ALM 11 … 旧「HP QC」の最上位版「Quality Center Premier」の機能強化バージョン。要件管理、品質管理、開発管理を1つのプラットフォームに統合。複数プロジェクトに対してアプリケーションライフサイクル全体を管理できる(621万6,000円/5同時ユーザ)
- HP Quality Center 11 … 旧「HP QC」の「HP Quality Center Enterprise」の最新版。要件管理と品質管理を1つのプラットフォームに統合(504万円/5同時ユーザ)
- HP Sprinter … HP ALMまたはHP Qusality Centerのアドオンとして稼働する手動テスト自動化ツール(ALM/QCに含まれる)
- HP Requirement Management 11 … HP ALMまたはHP Qusality Center上で稼働する要件管理ツール(33万6,000円/1ユーザ)
- HP LoadRunner 11 … 自動負荷テストツール。Ajaxを利用したWebアプリケーションの負荷テストを効率化する「TruClient」機能を新たに提供(684万6,000円/25仮想ユーザ)
- HP Performance Center 11 … エンタープライズレベルの負荷テストツール。今回から日本語版として提供(1,231万1,250円/25仮想ユーザ)
- HP Service Test 11 … 非GUIアプリケーションの機能テストツール(100万8,000円/1シートライセンス)
- HP Functional Testing 11 … GUIアプリケ^ションの自動機能テストツール(134万4,000円/1シートライセンス)
- HP Unified Functional Testing 11 … HP Functional Testing 11とHP Service Test 11のバンドルパッケージ(184万8,000円/1シートライセンス)
- HP Business Process Testing 11 … HP ALMまたはHP Quality Center上で稼働するビジネスプロセステストツール(50万4,000円/1ユーザ)
今回の一斉バージョンアップについて中川氏は「3つの大きなポイント」があるとする。
1つめはアプリケーションの要件定義から開発、廃棄に至るまでライフサイクル全般を幅広くカバーするソリューションであるということ。中川氏は「ユーザは、単なるテスト自動化ツールでは満足しなくなってきている。アプリケーションの品質向上と製品の市場投入のスピードアップがテストと同時に実現することを求めている」とし、一気通貫でアプリケーションライフサイクル管理を実現するソリューションに対して強いニーズが存在すると語る。とくに中核製品であるHP ALM 11とHP Quality Cneterにおいては、プロジェクトにおけるマイルストーンごとにチェック項目(KPI)を設定して進捗や品質を計測/追跡できる機能が提供され、プロジェクト全般にわたるアプリケーションの品質管理を実現する。
2つめはテストの自動化だけでなく手動化の部分にまで踏み込み、テストの高速化とリスクおよびコストの削減を図ったこと。「アプリケーション開発工程の50%はテストに費やされるが、さらにその大半は手動化テストによるもの」と中川氏。手動テストは得てして退屈で時間を要する作業のため、間違いや見落としが多く発生しやすい。HPは今回、HP ALM 11およびHP Quality Center 11のアドオンとしてHP Sprinterを用意したが、これによりデータ入力の自動化、不具合修正の迅速化、不具合の記録などが実現し、手動テスト部分の大幅な効率化が期待できる。「単なる自動化を超えた、手動化の領域まで踏み込んだ大きなチャレンジ」(中川氏)
ALMおよびQuality Centerのアドオンとして提供されるHP Sprinterは手動テスト部分を大幅に効率化するソフトウェア。言葉だけでは伝えにくい不具合などもアプリ上でとったキャプチャに直接コメントを書き込み、記録することができる |
3つめは、業界トップのシェアを誇るHP LoadRunnerに対して大幅な価格改定を実施したことだ。HP LoadRunnerに対しては、機能はすぐれているものの「価格が高い」「一時期だけ仮想ユーザ数を増やしたい場合などに適した柔軟なライセンス体系が用意されていない」といった不満がユーザサイドからあったのも事実。HP LoadRunnerの価格はコントローラと仮想ユーザライセンスで構成されているが、今回、仮想ユーザライセンス価格を最大40%以上値下げし、既存ユーザの追加購入促進を図ったほか、LoadRunnerを初めて利用するユーザを対象に、コントローラの価格を60%ディスカウントする「My First LoadRunnerキャンペーン」も展開する。また、期間限定のタームライセンスを新たに設けるなど「1ユーザから使えるライセンス体系を用意している」(日本HP HPソフトウェア・ソリューションズ統括本部 アプリケーション・ライフサイクル・マネージメント・ソリューション事業本部長 山岡英明氏)としており、ユーザの多様なニーズに応える姿勢を見せている。
ライバルはExcel!? マーケティングリーダーとしてのHPの責任
会見の冒頭で「はっきり申し上げて、この分野でコンペティターはいないと思っている」と中川氏は発言したが、それは圧倒的な自信というより、自動化テスト、そしてアプリケーションライフサイクル管理という市場自体がまだ日本では非常に小さいことをあらわしている。「だからこそ、我々がこの市場をつくっていかなければならない」と中川氏。そのために国内ソフトウェアテスト業界で多くの実績をもつ元クエスト・ソフトウェア社長の山岡氏をはじめとする「国内トップのテスト人材をハイアリングし、最強のALMコンサルテーション部隊を作り上げた」(中川氏)という。今後はパートナーとの協業も積極的に進めるとしており、すでにアシストと連携して業務や用途に特化したプロジェクトテンプレートの構築/提供を開始している。
アプリケーションライフサイクル管理において最も利用されているソフトウェアは実はExcelだと言われている。Excelからの乗り換えが進まないのはユーザがExcelである程度満足しているからではないのか?という質問に対し、山岡氏は「現場のエンジニアは決してExcelに満足しておらず、むしろ限界を感じている」と断言する。また中川氏も「ソフトウェアの品質要求は高まる一方にもかかわらず、コスト削減の傾向は続いている。Excelでは品質の高さ、開発スピード、生産性、どれをとっても向上させることは難しい」とする。Excelからいかにシェアを奪い、ALM製品の良さをユーザに理解させることができるのか。マーケティングリーダーとして本気のチャレンジが始まったようだ。