セレブとなれば、その私生活や友人・恋人などの交友関係、私服や所有物にまで人々の関心が集まる。その関心にこたえようと(あおろうと?)、タブロイド紙は日夜情報収集に忙しい。「セレブ」が流行語になる前から、有名人のゴシップ情報を多く記載するタブロイド紙が文化の1つとなっている英国で今月初め、大手タブロイド紙の副編集長が停職を命じられた。どうやら、女優Sienna Miller(シエナ・ミラー)氏が提訴している電話盗聴容疑と関係があるようだ。

問題のタブロイド紙は、「News of the World」。メディア王Rupert Murdoch氏がトップを務めるNews International傘下で、発行部数は270万部。日曜発刊のタブロイド新聞としては英国最大という。今回停職処分となったのは、ニュース担当副編集長のIan Edmondson氏。

Miller氏はプライバシー侵害などを主張し、News Internationalの子会社で発刊者であるNews Group Newspapersと私立探偵のGlenn Mulcaire氏を訴えていた。Edmondson氏が停職となる前の2010年末、一般紙の「The Guardian」はMiller氏の法廷書類を入手、そこで、Edmondson氏が2005年にMulcaire氏に調査を依頼していたことがわかった。Miller氏だけでなく、Miller氏の母親、パートナーといわれる俳優Jude Law(ジュード・ロウ)氏を含む友人数名、アシスタントなどに対し、留守電の盗聴を含む捜査を依頼していたらしく、法廷書類では、2005年から2006年の間にNews of the Worldが掲載したMiller氏とLaw氏の記事は、盗聴により収集した情報が含まれていると記されていたという。Miller氏は少なくとも2回携帯電話の番号を変えたようだが、Mulcaire氏の手書きのメモから、Mulcaire氏は新しい電話番号やPINコードなどの情報を取得していたことがわかった。

この事件は、盗聴やプライバシー侵害という点で注目に値するが、それだけでなく、政治的な影響も懸念されている。というのも、Edmondson氏がMulcaire氏に依頼したとされる2005年当時、World of the Newsで編集長を務めていたのはAndy Coulson氏、現英国首相であるDavid Cameron氏のコミュニケーション担当ディレクターなのだ。

Coulson氏は2007年にWorld of the Newsの編集長を辞任、その6カ月後にCameron氏の下に入った。編集長辞任のきっかけとなったのは、同年、部下で王室担当記者のClive Goodman氏とMulcaire氏に下った有罪判決だ。この事件では、Goodman氏がMulcaire氏に皇太子や王子の電話盗聴を依頼していたことが明らかになった。Coulson氏は辞任しながらも、事件との関係を否定している。

その後、2009年にはNews of the World側が3人と電話盗聴で非公式に和解していることが明らかになった。そして、今回、Edmondson氏も同僚Goodman氏と同様にMulcaire氏に盗聴を依頼していたことがわかった。World of the Newsの情報収集のやり方が問われるとともに、当時の編集長Coulson氏の関与が改めて調査される可能性がある。

英国のゴシップ誌「News of the World」は有名人のスキャンダルを多く扱うせいか、つねに名誉毀損などの訴訟沙汰が絶えない