ピコプロジェクタをご存知だろうか。一般的にプロジェクタと言われると、映画館や会議室などで用いられる大きなサイズのものをイメージするだろうが、ピコプロジェクタは手のひらに乗せたり携帯電話に搭載したりすることができるほど小さいサイズのものを指す。すでにSamsung Electronicsの携帯電話などGEのデジタルカメラなどに搭載され、実際に販売が行われている。

ピコプロジェクタ搭載アプリケーションの一部。奥のGEマークの製品はデジタルカメラにピコプロジェクタを内蔵したもの

そんなピコプロジェクタの根幹を支えるデバイスの1つがDLP(Digital Light Processing)だ。今回、そのDLPを手がけるTexas Instruments(TI)のDLP Products Senior Vice President兼General ManagerのKent Novak氏に話を聞く機会をいただいたので、その内容をレポートしたい。

Texas Instruments(TI)のDLP Products Senior Vice President兼General ManagerのKent Novak氏

デジタルシネマから手のひらサイズまで自由自在

TIのDLPそのものを見たことがある人は少ないと思うが、その利用範囲は広く、例えばIMAXシアターといったデジタルシネマで用いられているプロジェクタもDLPが用いられている。

TIが手がけるDLPチップ。右2つがピコプロジェクタ向けのもの。大きさの違いは解像度の違いによるものとなっている

「2010年はDLPの全セグメントで成長を果たした」(Novak氏)で、特にフロントプロジェクション(FP)がデジタルシネマの3D化はもとより、教育分野への浸透も進んでいるとのことで、「3D映画のワクワク感などを教育にも持ち込みたいという思いがそうした後押しとなっている」(同)としており、2011年はそうした3D化の波を受けて、さらなる市場拡大が見込めるとしている。

「デジタルシネマの始まりは1999年。しかし広く普及するのには時間がかかり、2009年までの10年間で2万6000台の出荷だった。しかし、アバターの大ヒットを皮切りに2010年は過去10年分の出荷台数を上回る出荷をデジタルシネマ向けに行った」(同)とする。また、「ピコプロジェクタはここ数年でビジネスが立ち上がった新規市場だが、成長速度は速く、年率300%の成長を見込んでいる」(同)とし、大型のデジタルシネマ向けから、手のひらサイズのピコプロジェクタまで、同一テクノロジで高輝度を実現できる特長を武器に幅広く対応を図っていくとする。

米国では教育現場のさまざまなシーンでプロジェクタの利用が進もうとしているという

どんな機器にも搭載可能なピコプロジェクタ

小型が故に、どのような機器にでも(輝度の差異はあるものの)搭載が可能なピコプロジェクタだが、現状で強いアプリケーションは何か。Novak氏は、「デジタルカメラ、ノートPC、ビデオカメラ、携帯電話など」と答えてくれた。特にカメラ関連は、これまでデジタルと言っても、撮ったばかりの画像は3型程度のカメラのモニタに表示させ、それをみんなに回して見せる、といったことが基本であったが、プロジェクタが搭載されていれば、壁などに投影し、大勢で見ることが可能となる。「携帯電話などはモバイルビデオという用途にニーズがあるのではないかと見ている。日本でもNTTドコモがこうしたアプリケーションの開発を進めており、恐らく他のキャリアや機器でも注目されるはず」との見方を示す。

ピコプロジェクタの適用領域の概要

ただし、市場規模はそれらアプリケーションが1億台以上(デジカメが約1億3000万台、ビデオカメラが約1億台、ノートPCが約2億台弱、スマートフォンが約2億台超)であることに比べると、2010年で100~150万台、2011年でも300~400万台とまだまだ割合は少ない。

では、今後、ピコプロジェクタが成長していくためには何が重要か。Novak氏は、「まずは輝度の向上」と述べる。輝度はDLPの利点を生かせる一番のポイントであり、「ピコ向けDLPは当初、輝度に制約があったが、DLPと光源であるLEDなどの開発を進めてきた結果、現在では100lmを出せるようになってきた。ピコプロジェクタの光源としてはレーザーもあるが、このクラスの機器であれば、レーザーよりもLEDの方が利点がある。ただし、我々のDLPの利点は、光源は何でも良いということだ。LEDであれ、レーザーであれ、それらのハイブリッドでも問題はない」とDLPの利点を強調する。

ピコプロジェクタの輝度とサイズによる製品区分け

輝度の向上が進めば、気になるのはフルサイズのプロジェクタとの差別化。何もある程度の大きさで良ければ大型のプロジェクタを使わなくても、という質問に対しては「やはり輝度で差別化。大型になれば光量と熱に対する余裕が生まれる。やがてそういった問題もある程度解決でき、デジタルシネマのクオリティを家庭にも持ち込めるようになるだろう。我々はベストな画質を常に求めて開発を行ってきた。それをピコの世界でも実現することが目標だ」とのことで、2011年にはより高解像度のピコプロジェクタ向けDLP製品を提供することも予定しているという。

組み込み型とスタンドアロン型のピコプロジェクタの市場成長予測

2011年はピコプロジェクタの本格立ち上げの年に

「ピコプロジェクタを用いれば、One to Manyの体験が可能となる。これが何を意味するのか。携帯電話にカメラが搭載されたときも、皆それを不思議に思った。しかし、今となっては、当たり前の機能として搭載されている。ピコプロジェクタもそうした当たり前の機能になる可能性がある」とNovak氏は意気込みを語る。

そのためには様々な機器に搭載される必要があるが、そうした意味では日本の家電メーカーへの期待も大きいという。「すでに携帯電話に搭載することを決めた日本のメーカーも居るし、デジタルカメラ、ビデオカメラなどは日本の家電メーカーにとっては重要な製品の1つ。ホームシアターは市場は小さいものの、3D化に興味を持っている人は多いはず。また、プロジェクタタイプのゲームなども想定されている。DLPを用いれば、従来製品との差別化を図ることができる」と日本メーカーへの期待を表す。

ピコプロジェクタを搭載した機器により、これまでとは異なる新たな体験を生み出すことの手助けを行うというのが半導体ベンダであるTIとしての目指すところであることをNovak氏は強調する

最後に、DLPを活用するカスタマやユーザーに向けたメッセージをNovak氏よりいただいたので、それを紹介したい。「ピコプロジェクタをどう使うか。まだまだ想像を超えた活用方法が恐らく生まれてくるはず。そこの部分をカスタマやユーザーと一緒に生み出していくことができれば、すべての機器にピコプロジェクタが搭載されることになるかもしれない。我々は機器メーカーなどのグローバルセールスの拡大に貢献したいと思っている。より深いパートナーシップを多く行っていくことで、それが実現できるはずだと考えており、2011年は、その第一歩が踏み出せればと思っている」