Nordic Semiconductorは、同社の2.4GHz RFおよび低消費電力(ULP)な実用ワイヤレスネットワーク用アプリケーション向けプロトコルおよび半導体ソリューションであるANT/ANT+製品ラインアップを拡充、ウェハレベルチップスケールパッケージ(WLCSP)オプションを新たに追加した。

同パッケージは、空間的制約の大きい、スポーツ、フィットネス、健康器具などでの利用を想定して開発されたもので、ワイヤレス腕時計、サイクルコンピュータ、センサ、補聴器などの身体およびその周辺に装着する機器への適用を見込んでいる。

2011年第1四半期より1チャネル/8チャネルの「nRF24AP2 WLCSP」およびフラッシュ/OTP「nRF24LE1 WLCSP」オプションをそれぞれサンプル提供する予定で、2011年第2四半期には量産出荷を開始する計画。

nRF24AP2 WLCSPは、ピッチ幅400μm(規則的配列)、厚さ0.5mm、実装面積2.6mm×2.7mm(7mm2)の32ボールBGAによる1チップANTソリューションであり、競合製品と比べてパッケージサイズを1/5以下に小型化することに成功している。

また、nRF24LE1 WLCSPもピッチ幅400μm(規則的配列)の32ボールBGAを採用し、サイズはフラッシュ版が2.7mm×2.7mm(7.3mm2)、OTP版が2.6mm×2.7mm(7mm2)となり、厚さはいずれも0.5mmを実現している。

WLCSPパッケージそのものはもはやそれほど珍しいものではないが、今回同社が同パッケージ品を提供したことについて、同社日本カントリーマネージャである山崎光男氏の話によると、同社がファブレスであり、半導体のパッケージングを手がけるサブコントラクタ側がようやく同社の求めるサイズのWLCSPに対応したことから、提供を決定したという。

Nordic Semiconductorが提供する3種類の無線通信チップ。これらの製品のうち、独自2.4GHz製品とANT製品にWLCSPパッケージがオプションとして追加されたこととなる

こうした極小パッケージが狙うアプリケーションは、同社が注力してきたBAN(Body Area Network)やPAN(Personal Area Network)分野に適用されることは基本変わりは無いが、これまで同社製品が適用されてきたスポーツバイク(自転車)における心拍計やランニングシューズに搭載するフットポッドといったものよりも、より低消費電力と搭載サイズを意識したコンシューマユースの製品(例えば血圧計や体重計・体組成計、歩数計など)を想定している。

こうした取り組みは、同社の提供する2.4GHz RF製品の適用範囲を拡大することを目的としたものだ。ANT/ANT+を活用するためのアライアンスである「ANT+ Alliance」のメンバーは2010年9月下旬の時点で300社を突破しており、今も拡大している。この背景を山崎氏は、「BluetoothやワイヤレスLAN(WLAN)、RF4CEなどのほかの無線規格に比べて低消費電力を実現できる」ことにあると見ている。BluetoothやWLANなどを用いたアプリケーションは比較的大きなデータの送受信を行うが、先述したような血圧計や体重計の測定結果や、ワイヤレスマウスの座標位置などのデータは多くても数バイト程度で済む。わざわざ極僅かのデータ量をそうした無線規格で送るのは非効率だ。

ANTプロトコルはすでに規定されていることから、機器ベンダ側はANT+を利用して開発することで、機器が異なっても同じサービスを提供することが可能となる

また低消費電力という意味ではRF4CEもあるが、例えばリモコンボタンを押す、という行為であれば問題はないが、PCライクなTV、いわゆるスマートテレビの場合、これまで以上に多くの機能が搭載されることから、すでにデジタルテレビで無数のボタンを配置した以上にボタンを配置してユーザーに使わせるといったことは混乱のもとで、マウスのようにカーソルを動かしてアプリケーションを選択して操作するといったことが考えられている。実はRF4CEはそうした使い方に向いておらず、意外と電力を消費する(250kbpsの送信で送信時間も長いため)。また、WLANとの干渉も発生する場合があり、そうした問題をTVメーカー各社も認識しており、次世代テレビの実現に向け、すでに海外のPCならびに家電ペリフェラルベンダなどはANT+を活用したマウスライクなリモコンなどの検討を進めているという。

さらに面白いのは、ハードウェアベンダだけがこうした取り組みを行おうとしているのではない点。2011年1月6日より米国ラスベガスで開催されている2011 International CESでは、同社や機器ベンダのほか、携帯電話キャリア、クラウドサービスベンダなどが協力して各種ANTデバイス搭載機器からのデータを携帯電話網を介し、各種クラウドサービスと結びつけるというデモを紹介している。すでにツールド・フランスでHTCが自社チームであるチーム・コロンビアのメンバーにANT+搭載携帯電話を持たせ、心拍数の推移や位置情報、速度などをGoogle Mapと連携してリアルタイム中継を行うなどの下地はあったというが、そうした試みを実際のビジネスで活用しようと提案するのが今回の展示の意味するところだという。

ANT+製品をゲートウェイを介して、クラウド上のサービスと接続しようという試み。ちなみにANT+はNordicだけが提供しているわけでなく、Texas Instrumentsなどのほかの半導体ベンダもサポートを表明している

どちらかというと、この試みはコンティニュア・ヘルス・アライアンスが提唱している試みと被るところが大きい。しかし、現状のコンティニュアでは、Bluetooth Low Energy(LE)のプロファイルが規定されておらず(2011年中には決定される予定)、通常のBluetoothでは消費電力が大きいことから、ANT/ANT+の方が一歩先んじた感がある状況となっている。

なお、今回の試みについて山崎氏は「実際は何でつながっているかは問題ではない。すでにBluetoothからANTなどへ変換するコンバート用スタックの提供を行うサードパーティも出てきている」としており、BluetoothやANTをホームゲートウェイ側で、コンティニュアのプロファイルへ変換しようという動きもあることも踏まえ、「ネットワークにつながり、各種アプリケーションを活用することで、どんなメリットを得られるかが問題となっている」と指摘しており、ポイントは各種クライアント側の機器から、一括してサービスを活用できる環境を構築することにあることを強調する。

ちなみに、今回の試みに際して端末は日本の携帯電話ではない某メーカー、クラウドサービスの開発拠点も日本(3Gネットワークとのコネクションは米国なので米国キャリアを活用)とのことで、ほぼ開発は日本の中で日本語で行ってきたとのことで、「おそらく2011年の夏ごろには日本を基点として商用化サービスがスタートできると見ている」(同)としており、今後、国内の端末メーカーや健康器具メーカー、サービサー、スポーツ用品メーカーなどを増やしていければとしている。