2010年2月にプロジェクトが発足したモバイルLinuxの「MeeGo」は、立ち上げたフィンランドNokiaと米Intelが中心となり、Linux Foundationでプロジェクトが進められている。MeeGoのアーキテクチャは、Core OS、API、ユーザーエクスペリエンスに分かれるが、中核となるCore OSのプログラムマネージャーを務めるのが菅野信氏(Nokiaデバイス事業部Maemoソフトウェア・ミドルウェアトップ)だ。学生時代にオープンソースの世界に入ったという菅野氏は、Nokiaで「Nokia 770」(インターネット・タブレット)など「Maemo」搭載端末開発に関わった人物。アイルランド・ダブリンで開催された「MeeGo Conference 2010」で菅野氏にMeeGo.comとしてCore OSの開発動向について聞いた。
--MeeGoが2010年2月に発足し、4月にバージョン1.0がリリースされ、10月には「MeeGo 1.1」をリリースしました。これまでの経過を教えてください。
Nokiaの「Maemo」とIntelの「Moblin」をマージさせ、最初に出したのがバージョン1.0です。バージョン1.0はかなり試験的で、アーキテクチャも完全にクローズしていない状態でリリースしました。できるところからはじめたので基本的なものしかなく、たとえば携帯電話向けのHandsetもサポートしていませんでした。
バージョン1.1の最大のニュースは、(スマートフォン向けのUX)Handsetのリリースが出たことです。品質、ユーザビリティなど最終的な使い心地という点では課題を残していますが、Handsetを使ってオープンソースのMeeGoをベースに電話がかけられるというところまできました。「Nokia N900」にMeeGoのイメージを載せれば、オーディオプレイヤーやメディアプレイヤーが動き、SMSのやり取りが可能になりました(IntelアーキテクチャベースではAava Mobileの携帯電話「Aava」)。これが現在の段階です。
ですが、1.1はまだ開発者向けというのがわたしの正直な印象です。先に挙げたような機能を詰め込むことはできましたが、エンドユーザーが受け入れるかとなると、まだだと認めています。実際にインストールするとわかることですが、速度が遅い。OSの起動、アプリの立ち上げなど全体として遅いし、ボタンのレスポンスが悪いこともあります。まだデモンストレーションの段階で、製品化の段階とはいえません。それでも、確実に進歩はしています。
このほかにも、1.1では機能とは別に、「Qt Mobility」のサポートなど、開発者のサポートに向けた準備も整えてます。
--1.2ではどういったところに取り組む予定ですか?
1.2では製品化の部分の作業を進めていきたいと思っています。
たとえば、機能面ではプラットフォームセキュリティが加わる予定です。また、リソースポリシーも加えたいと思っています。リソースポリシーは携帯電話では重要な機能で、たとえば音楽を再生中に電話がかかってきたら音楽を一時停止して電話用にボリュームを直す、などのことが可能になります。このあたりは、NokiaのMeeGoへの貢献になります。Bluetooth LE用のソフトウェアスタックのサポートも考えています。
また、MeeGoが盛り上がるためには、使いやすさの改善が必要とも思っています。これは、今回のカンファレンスでBoFを開いたとき、参加企業からも指摘がありました。
--モバイル分野ではタブレットがブームですが、MeeGoではタブレットにどう対応するのでしょうか? タブレット用のUser Experienceを作成するような計画はあるのですか?
すでにMeeGoを搭載したタブレット製品はあります(独4tittoの「WeTab」)。タブレットの取り扱いについては、現在チーム内で話し合っているところで、今後についてきちんとしたことを話せる段階にありません。開発者がアプリケーションを書いたらどれでも動くことが大切だと思うので、基本的にはあまり区別したくないと思っています。
--MeeGoはオープン性をアピールしていますが、プログラムマネージャーとして開発を進めていくにあたってやりにくいと感じることはありますか?
諸刃の剣のようなもので、良い面を見れば良いし、悪い面を見ると悪いですね。
Nokiaとしては、1つの企業がすべてを行うというモデルは古いと思っています。みんなでスクラムを組んで、オープンガバナンス/オープンイノベーションでやっていこう、というのがNokiaのメッセージです。これは賭けでもありますが、われわれはこの方法を戦略として選びました。
--「Android」はGoogleの強いリーダーシップの下でスピーディに発展しており、これが成功の要因でもあるとすると、MeeGoのオープンガバナンスはマイナス面もあるのでは?
たしかにそうですが、1つの会社がリードして失敗した例もあります。Googleは成功していますが、オープンだから失敗するとはいえない。たとえば、標準化作業では複数の会社が集まって成功している例がたくさんあります。それを考えると、(MeeGoのオープンガバナンスの)潜在性や可能性は高いと思っています。
ですが、何をやっているのかわからない、となるとせっかく関心を持ってもらっても参加者とわれわれとの間に距離ができてしまいます。MeeGoは6カ月おきにリリースすることにしていますが、これにより開発者やコミュニティに安心を与えることができます。6カ月おきのリリースは自分たちに課している宿題と思っており、透明性のためにも重要だと受け留めています。
--コミュニティを活発にするためには参加者に貢献してもらうことが大事だと思います。Nokiaの社員ということが障害になると感じることはありますか?
会社や立場が違う人が参加しているので、意見がかみ合わないこともあります。ですが、このような体験はNokiaにとってもMeeGoにとってもチャレンジで、オープンガバナンスとはどういうものなのかを経験していく必要があります。カンファレンスなどオープンにディスカッションできる場を持たずに、閉鎖して自分たちが思うように進めたものをもってくることもできますが、これはNokiaの戦略とは違います。かみ合わないことがあっても、歩み寄ってみようという一種の試みだと思っています。
--今後MeeGoを使って各メーカーに製品を作ってもらうことになりますが、携帯電話ではNokia以外の携帯電話メーカーに採用してもらうのは難しいと見る向きもあります。たとえば同じオープンソースを目指した「Symbian」は、他社が採用するという面ではうまくいきませんでした。
ここでは2つのキーワードがあります。
1つ目は、NokiaがMeeGoを使ってすばらしい製品を作ることです。こんな素晴らしい製品をMeeGoで作れるんだ、と思ってもらうことがMeeGo採用につながると思っています。MeeGoのスタックを良いものにして、他社が"これを利用すればすぐに優れた製品ができる"と思ってもらうことは、MeeGoのプッシュにもなります。
2つ目は、われわれは最初からオープンガバナンスでやると宣言しており、それを実践しているという事実です。要件もバグもすべて公開して、透明性を保っています。
--日本では海外製のスマートフォンが増えています。日本で再びNokiaの携帯電話が発売される可能性はありますか?
Nokiaは日本でがんばっていたし、個人的には日本にNokiaの端末が出てきてほしいと思っています。
新しいCEO(Stephen Elop氏)なども明らかにしていますが、会社としては、まずは北米で成功しようという戦略です。その後に日本という可能性もあると思います。
--今後、NokiaはMeeGoにどういうスタンスで臨むのでしょうか。
Nokiaとしては、MeeGo.comに注力することが製品開発にとってプラスになると信じています。MeeGo.comはNokiaのとった戦略で、まずは、自社製品でこれを証明したいと思っています。