東北大学および茨城大学、東京大学、千葉工業大学の研究グループは、衝撃を受けている月起源の隕石(ASUKA-881757)中に、シリカの高圧多形であるコーサイト、スティショバイト、さらに月には珍しい石英の存在を確認したことを明らかにした。月起源の物質にコーサイト、スティショバイト、石英が共存することを明らかにしたのは、この研究が初めてだという。
初期の月・地球系において、約40~38億年前に、隕石の重爆撃があったと考えられている。その証拠は、地球ではさまざまな地球現象によって失われているが、月では多くのクレータおよび衝突で破砕されたブレッチャ(砕折岩)としてその記録が残されている。この隕石重爆撃により、地球生命の起源となった有機物も地球および月にもたらされた可能性が指摘されてきた。
地上で発見された隕石には、月面上の衝突現象によって地球にもたらされた「月起源隕石」と呼ぶものがある。月起源隕石は、月のさまざまな場所からもたらされたことが、アポロ探査船によって回収された岩石試料との比較から明らかになっている。今回の研究で調べた月起源隕石(ASUKA-881757)は、衝撃を受け一部が融解し生じたガラスを含む玄武岩質の隕石で、同隕石のサマリウム・ネオヂム年代によると、38億7000万年前にマグマから結晶化し、ガラス部分のアルゴン年代によると38億年前に激しい衝突(カタクリズム)を受けたことが分かった。
また、宇宙線年代によって、100万年前に他の隕石衝突によって月から飛び出し宇宙空間で宇宙線にさらされた後、地球に飛来したものとされ、月のカタクリズムを解明するのに最適な隕石となっていた。
今回発見された高圧鉱物は、これまで地球の隕石孔などに発見されていたが、月の表層の岩石つまり、月起源の隕石やアポロによる月からの回収試料中にはまったく見出されていなかった。これは、月と地球の衝突の条件や表層環境の違いによると考えられていたが、今回の研究により、月起源の隕石にも高圧で安定なさまざまなシリカ鉱物が存在すること、つまり、同隕石がもたらした月の表層にもさまざまな高圧鉱物が存在することが明らかになった。このような高圧鉱物は、これまでの月の研究では見落とされていたが、月の表層には、今回発見されたようなさまざまな高圧鉱物が小天体の衝突にともなう衝撃変成によって形成され、普遍的に存在すると予想されると研究グループでは説明している。
高温高圧下では、鉱物はより密度の高い結晶構造に変化する「相転移」が起きる。地球内部の高温高圧の環境や、隕石や惑星表面の衝突による衝撃によって高温高圧が発生し、それにともないさまざまな高温高圧で安定な鉱物が生成されることとなるが、それら高圧鉱物は、衝撃を受けた条件を示し、それから衝突現象の激しさを相平衡図にもとづいて定量的に見積もることが可能だ。
今回の研究では、月起源の隕石にスティショバイトやコーサイトが見出されたことから、少なくとも月の表面における衝突によって80~300kbar(約8~30万気圧)の圧力が加わったことが明らかになった。
研究グループは、この成果にもとづいて、38億年前に隕石の激しい衝突現象(月のカタクリズム)にさらされた月の表面を構成するレゴリス層中には、さまざまな高圧鉱物が存在するものと予想しており、今後の月のレゴリス層の詳しい調査を行うことで、まだ発見されていないさまざまな高圧鉱物が見出されるとしている。