米アドビ システムズでDigital Publishing部門を統括するジェレミー・クラーク氏と、iPad向けにWIRED Magazine誌などを提供している米Conde Nastのスコット・ダディッチ氏へのインタビュー第三弾。今回はふたりに電子出版における今後の課題と展望を伺った。なお、第一弾はこちら、第二弾はこちら。

AppStoreやAndroidMarketでの電子出版物の販売は、紙の雑誌と同じように、コンテンツに値段をつけて販売可能なため、出版側にとっては、新しい販売チャネルとして期待できる。確かに、Webではコンテンツをパッケージ化して販売することが難しい。しかしその反面、Twitterなどのソーシャルシェアリングでの情報伝搬の流れも見逃せない。パッケージ化された電子出版物を、ソーシャルシェアリングの流れに乗せて伝搬させるような機能はあるのだろうか。

左から、米アドビ システムズでDigital Publishing部門を統括するジェレミー・クラーク氏、米Conde Nastのスコット・ダディッチ氏

この件についてクラーク氏は、「現状ではまだ検討中です。たとえば、インタラクティブなコンテンツについて言及していた場合、読者が『WIREDの記事が凄い』とTwitterにリンク付きで投稿したとしても、リンクから来た人にどう見せるかという手法が解決されていません。Web記事ではインタラクティビティを見せることはできませんので、プレビューを見せるか、購入を促すのか、有効な方法を見つけなければなりません」と課題を述べた。

現状、パッケージ化された電子書籍の中から、Webビュー機能を使ってソーシャルなサービスに連携することは可能だ。Webビューは、Web上のコンテンツを誌面にレイアウトできる機能。ダディッチ氏は、記事を読みつつFacebookの画面を表示したり、記事に関連するTwitter上のつぶやきが表示されるウィジェットをレイアウトしたりといった、WIREDでのWebビューのデモンストレーションを行った。静的なレイアウトと、ダイナミックなウィジェットが融合した電子書籍ならではの誌面だ。

最後に、クラーク氏は電子出版における一番の課題について「技術的な課題は、今後登場するたくさんの端末への対応です。画面サイズや解像度などを考慮すると、レイアウトの忠実性を守るのが難しいと思います。デザイナーとしては、すべての端末の忠実性を求めて個々に対応する作業をするのか、ある程度の忠実性を犠牲にして自動化させるのか、難しい問題です。アドビとしても今後、数年取り組んでいく課題となります」とし、ダディッチ氏は「今はタブレットのユーザーは少ないですが、タブレット端末の未来は明るいです。ユーザーが増えてくればスケールメリットを出せますので、より多くのリソースを投入できます。1946年、1%の視聴者に対してテレビ番組を作っていました。我々の状況はこれに似ています。今後は我々にとってエキサイティングな状況になると思います」とコメントした。

スマートフォンやタブレット型端末の登場によって、新たな電子出版の形が模索されている昨今。印刷物やWebの制作環境を提供してきたアドビと、それらを使ってきたクリエイターたちにより新しい取り組みは、今後の電子出版ビジネスを盛り上げるファクターのひとつになるのではないだろうか。