2010年のGordon Bell賞はジョージア工科大学、ニューヨーク大学とオークリッジ国立研究所の共著の「Petascale Direct Numerical Simulation of Blood Flow on 200K Cores and Heterogeneous Architecture」という論文が受賞した。

Gordon Bell賞は、最高の計算性能や性能/コストを実現した論文や計算科学に新規な方法を導入したというような論文に与えられる賞である。このような評価基準に達した論文が多ければ受賞も多くなるし、少なければ受賞も少なくなるというように、受賞論文の数は一定しない。そのため、2009年は4件の論文に対してGordon Bell賞が授与されたが、今年の受賞は、この1件だけである。

しかし、Gordon Bell賞にはHonorable Mentionというのがある。受賞の基準には惜しくも届かなかったが、よく出来ているので名前を挙げておくというもので、日本のシステムでいうと、入賞の次の佳作という感じである。今年は、最高性能部門ではチューリッヒ工科大学とテネシー大学の共著の「Electronic Structure Simulations of Excited States and Correlations in Nano- and Material Science」と、性能/コスト部門では長崎大学の浜田准教授と理化学研究所(理研)の似鳥研究員の共著「190TFlops Astrophysical N-Body Simulation on a Cluster of GPUs」がHonorable Mentionとなった。

図1 Gordon Bell Honorable Mentionの賞状を持つ浜田准教授(右)と似鳥研究員(左)

浜田先生は昨年Gordon Bellを受賞しており、2年連続の受賞はかなわなかったが、それに近い快挙である。浜田先生にうかがったところ、この論文のほかに創薬関係と星間物質の凝縮の2件の論文を投稿しており、そちらの方が自信があったのだが、そちらは採択されず、この論文がHonorable Mentionになったということで、ちょっと意外感があるという。

Gordon Bell賞の血流シミュレーション

Gordon Bellを受賞した論文は血液の流れをシミュレートする論文である。次の図で"たらこ"のように見えるのが個々の赤血球で、図には描かれていないが血漿の液体の中を流れて行く。この図では3種類の赤血球の配列を示しているが、このほかにも色々な形態をとる。赤血球を変形しない固体として扱う計算ではかなり多数の赤血球を含む系のシミュレーションが可能となっているが、固体近似では精度が悪い。

図2 赤血球の流れの例(SC10での受賞論文から転載)

これに対して、赤血球が周囲の圧力によって変形することを考慮したシミュレーションは複雑であり、従来は、数1000個の赤血球を含む系しか解析できなかった。この論文では赤血球の変形を計算するアルゴリズムを工夫し、かつ、多数ノードでの並列計算が可能なアルゴリズムを開発することにより2億個の赤血球を含む系の計算を可能とした。そして、オークリッジ国立研究所のJaguarシステムの20万コアを使用して実効0.7PFlopsの性能を得ている。なお、針で指先を突いてポチッと出る血が1μl程度で、このシステムでは50μl程度の血液の流れをシミュレートできるという。

すでに、このシステムを使って、対称的な流れの中でもなぜ、赤血球の形状が非対称になるのかという重要な知見が得られたという。なお、血管の形状を与えて流れシミュレートする計算を高度に並列化することは、まだ、出来ておらず、今後の課題となっている。