働く女性は増えたけれど、特に管理職や経営層に就いている女性はまだまだ少ないのが日本企業の現状。しかし、女性だって有能ならば管理職にしたほうが、企業にとって効果的な人材活用が図られるはずだ。本稿では、女性のリーダーを育成するための取り組みを行っているアクセンチュアのパートナー 堀江章子氏と人事部 岩下千草氏に話を伺い、女性リーダーを育てるポイントを見出してみたい。
能力はあるのに自信がない女性たち
「アクセンチュアは女性リーダーを育成する取り組みを行っている」と書いたが、同社の人材育成の方針は「男女を問わず、個人の能力を生かし伸ばしていく」というものだ。リーダーシップを育成するためのトレーニングは新入社員の頃から男女共通で行われている。
しかしながら、「男性と比べて、女性は"上にいきたい"という気持ちを示さない傾向があります。それは十分スキルを持っていてもです」と、岩下氏は語る。そこで同社では、女性社員に対し、「あなたは管理職にチャレンジできる状態にありますよ」ということを伝え、自信を持たせるために、男性とは異なるトレーニングを行っている。これが、マネージャ以上の女性を対象とした、女性管理職向けリーダーシップと呼ばれるものだ。
例えば、クライアントに対して、「なぜ自分がこのプロジェクトにアサインをされたのかをアピールする」といったトレーニングが行われている。意識的に自己ピーアールをすることで、自分を表現していくことを身につけさせようというわけだ。
同社の取り組みは、女性のリーダーを増やすことに主眼を置いているというより、女性からリーダーとしての能力を引き出すための活動と言えようか。
社内の女性のロールモデルを知ることの意義
パートナーとして数百人の部下を持つ堀江氏も、「男性と女性は仕事に対する思考が異なる」と指摘する。「プロジェクトを任せる場合、男性は10%でもやりきる自信があれば"がんばります"と引き受けます。対する女性は、90%はできると確信していても残りの10%に不安があれば"考えさせてください"と返事を保留することが多いです」
同氏は仮に控えめな意思表示をするにしても、前向きさを見せる言い回しをすることで印象は変わると話す。そこで、こうした考え方を変えていくためのトレーニングも行われているそうだ。
同社でも女性リーダー育成のための仕組みはここ数年本格化しており、教育を受けた層とそうではない層がいる。2つの層において違いがあるかどうかを聞いてみたところ、「明らかに違うわけではありませんが、女性には"控えめな思考がある"ということを知っているだけで、言動が異なるように思います」と同氏。
プロジェクト単位で業務を行うことが多い同社では、同じ立場の女性社員と触れ合う機会がそれほど多いわけではない。そこで年に1度、全女性社員を集めるイベントが開催されている。そのイベントでは、自ら歩んできた道を共有したり、キャリアや仕事といったさまざまなテーマによるディスカッションを行ったりする。岩下氏は「女性は同じ思いを持っていることを共有するだけで効果があるようです」と語る。
参加者に同イベントに参加して最もよかった点を尋ねたところ、「それまでは自分より上の立場の人のキャリアがピカピカに見えて遠い存在の人にしか思えなかったのが、自分の将来像の1つとして身近に感じられるようになったこと」という答えが返ってきたそうだ。
男性の管理職しか周りにいなければ、上を目指そうにも具体的に考えることは難しい。しかし、実際に女性の管理職に会ってその考え方に触れることで、女性の管理職という存在を自分の身に引き寄せて考えられるようになるというわけだ。
会社は自分が思うほど期待していない!?
続いて、堀江氏に管理職としてどのようなことに気をつけているかについて聞いてみた。同氏がまず挙げたのが「その人に合わせて、期待値を伝えていく」ということだった。というのも、会社がその人に対して持っている期待値よりも、当人が想定している期待値が大きなことが多いからだという。当然だが、職位や職種ごとに、会社が求めている期待値は異なる。
「優秀な人ほど、"私はまだまだ足りない"と"100%主義"に陥りがちです。そこで、現在のレベルで十分で会社の期待値に達していると伝えることで、もっと自信を持ってもらえると思います」
また、同氏は部下がしている仕事に対し、こまめにフィードバックするよう心がけているそうだ。「自分自身が部下の立場にある時、上司からフィードバックを受けると嬉しかったので、部下へのフィードバックは積極的に行っています。"自分のことをきちんと見てくれている"と感じられことは、仕事に対するモチベーションを保つうえで大切です」
他人の意見から自分を知ろう
最後に、キャリアパスの立て方についてアドバイスをもらった。堀江氏は「自分が普段していること以外のことにも興味を持って、視野を広げるといいと思います」と話してくれた。また、周りの人の意見に耳を貸すことも大切だという。
「案外、自分では自分のことが見えていないものです。他の人には見えているけれども自分ではわからない長所から、適した仕事が出てくる可能性があります」
そして、「人から"○○が向いているのでは"と言われた時、理由を尋ねてほしい」と同氏はいう。「予想していなかったことを言われて、"それはなぜ?"と聞く人は少ないです。しかし、その裏には何らかの理由があるはずです。少しでも自分のいいところに目を向けてみてください」
岩下氏も「環境が変わると、"自分はいける"と自信がつく人が多いです。いいスパイラルが続き始めると、会社に対する不満も"どうしたらそれを手に入れられるのかという形で"出てくるようになりますね」と話す。
また堀江氏は「女性は、"家庭が○○だから"、"夫が○○だから"、"子どもが○○だから"といったように、主語が自分ではないことが多々あります。そうではなく、"私はこうしたい"と考えるようしてみてください。こうすることで、自分を主体としたキャリアを作っていけるでしょう」
すでに女性リーダー育成に関するさまざまな取り組みを行っているアクセンチュアだが、ここ数年事業拡大が急激に進んだということで、もっと整備を行っていくという。
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インタビュー中、堀江氏の口から「個人に合わせたコミュニケーションをとる」という言葉が繰り返し出てきたのが非常に印象的だった。「個性の尊重」がアクセンチュアの方針とはいえ、数百人という部下を持つなか、一人ひとりを見ることは至難の技だろう。同氏のリーダーとしての姿勢に感服した。
おそらく、このインタビューを読んだ女性の多くは「自分を過小評価しがち」、「自己アピールが苦手」という部分に共感されたのではないだろうか? 今、キャリアで悩んでいる人がいたら、思考を変えてみるというのも手かもしれない。