産業総合研究所(産総研)は、青色と緑色の単色光を交互に照射すると、可逆的なフォトクロミズム現象を安定して示す複合金属酸化物材料を開発したことを明らかにした。
適切な波長の光が照射されたとき、色が可逆的に変化する無機材料である無機フォトクロミック材料は、高密度メモリやディスプレー用の材料として期待される材料の一種で、半導体レーザーやLEDを光源として使用できる小型の高密度メモリを開発するために、可視光に応答する無機フォトクロミック材料の研究が行われている。
しかし、ほとんどの無機材料は可視光でフォトクロミズムを示さず、また、耐久性が低く応答速度も遅いなどの問題があった。さらに、数回の光の照射で脱色できなくなるなど可逆性が乏しいという課題もかかえていた。また、材料の色もほとんどが青色であった。
研究チームは、従来の無機フォトクロミック材料の可視光応答特性と耐久性のさらなる向上を目指して研究開発を進め、今回、半導体レーザーやLEDを光源として使えるように、青色光と緑色光でフォトクロミズムを起こす材料の探索を行い、さらにフォトクロミズムの特性を向上させるために、調製条件の影響や金属元素の添加効果などの調査を行った。
蛍光物質である複合金属酸化物を中心に材料探索を行った結果、還元雰囲気で調製したバリウムマグネシウムケイ酸塩(BaMgSiO4)が可視光応答性のフォトクロミック特性を持つことを発見した。
BaMgSiO4はトリジマイト構造に属し、SiO4四面体が角でつながり3次元のトンネルを形成している。そのSi4+イオンの半分はMg2+イオンに置き換わっており、トンネルの中にBa2+イオンが埋め込まれた構造をしている。今回作製した試料の結晶構造をX線回折で調べた結果、すべての回折ピークがトリジマイト構造の回折ピークパターンと一致し、還元雰囲気での調製によってトリジマイト構造が変化していないことが確認された。
アルゴン雰囲気中で調製したBaMgSiO4(BMS)と水素を5%含んだアルゴン雰囲気(還元雰囲気)中で調製したBaMgSiO4(BMS-H)の反射スペクトルとフォトクロミズム特性を調べると、光照射前にはどちらの試料も、可視光領域における反射率の減少はない。しかし、青色光(波長405nm)を照射するとBMS-Hでは523nmの光の反射率が減少し、薄いピンクに色づくことが観察された。
また、青色光を照射した後のBMS-Hに緑色光(波長532nm)を照射すると無色に戻り、可逆的なフォトクロミック現象が確認された。さらに、紫外光(波長365nm)を照射した場合は、BMSでは523nm付近にわずかな反射率の減少が見られるだけだが、BMS-Hでは523nmを中心とした幅広い可視光領域での反射率が減少していた。このときのBMS-Hの色は鮮やかなピンクであり、紫外光照射後に緑色光を照射すると無色に戻ることも確認された。
加えて、興味深いことに、青色光を照射し続けても反射スペクトルは変化せず(色は濃くならない)、しかも、紫外光照射後に青色光を照射すると鮮やかなピンクから薄いピンクに色が変化する。すなわち、照射する光によって色の濃さが変化する現象を見いだした。
また、BaMgSiO4のフォトクロミック特性を向上させるために、さまざまな金属元素の添加効果について調べた結果を見ると、鉄(Fe)やユウロピウム(Eu)を添加した場合に523nmの光の反射率が減少した。10回以上光の照射を繰り返しても色の変化にほとんど影響がなく、耐久性にも優れていることが確認され、特にFeはレアアースであるEuより入手しやすいため、今後の活用が期待される。
さらにBaMgSiO4の可視光応答フォトクロミズムのメカニズムは、還元雰囲気の調製によって現象が観察されることから、材料中の酸素欠陥が関与していると考えられるという。すなわち、光照射によって励起された電子が、酸素欠陥につかまってしまうことによって、523nmの光を吸収するようになりBaMgSiO4がピンク色に見える。逆に緑色光を照射すると、欠陥につかまっていた電子が励起されて元に戻るために脱色されると考えているという。また、波長によって色の濃度が変化するのは、励起される電子の遷移確率が励起波長に依存するために、濃度の違いが現れているものと推測していると研究チーム説明している。
なお、研究チームは今後、高密度メモリやディスプレー材料としての可能性を実証するために、金属元素を添加したBaMgSiO4の薄膜化の研究を行う予定としている。