宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月7日、金星探査機「あかつき」を金星周回軌道へ入れるための逆噴射を行ったが、その後トラブルが発生。現在、通信は確保されている状況だが、探査機の詳細な状態は分かっておらず、同機構では懸命な復旧作業を続けている。

「あかつき」は日本初の金星探査機。今年5月21日に打ち上げられ、約半年をかけて金星に向かっていた。日本では、1998年に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」が周回軌道への投入に失敗している。今回成功すれば、日本で初めての惑星周回機となるはずで、関係者も意気込んでいた。

JAXAは同日22時より記者会見を開催、中村正人プロジェクトマネージャがこれまでの状況について説明した。以下に当日の経過を述べる。

「あかつき」は予定通り、同日8時49分(日本時間、以下すべて)に推力500Nの軌道制御エンジン(OME)を噴射。この噴射による減速は、ドップラーデータの変化により確認されており、管制室はわっと沸いた。

この後すぐ、「あかつき」は金星の向こう側に入る(地食)ために、地球との通信が中断。地食は9時12分ころに終わり、地球に電波が届く3分半後以降には通信が再開される予定であったが、すぐには復旧せず、緊張した空気が流れる。

地食後には、通信速度が512bpsのミドルゲインアンテナ(MGA)によって通信が再開される予定であったが、通信が確立できなかったために、10時3分、探査機側で自動的に8bpsのローゲインアンテナ(LGA)に切り替わった。地上のアンテナで探査機を探し、10時28分に電波の受信に初めて成功した。

ただし、このときはまだ探査機がどういう状態にあるのか、まったく分かっていない。そのためには、探査機側のデータを地上にダウンロードする作業が必要となるのだ(テレメトリの受信)。

LGAでは通信に時間がかかるために、探査機側でMGAへの切り替えが試みられたが、再び失敗。その後、14時には日本から探査機が見えなくなったために、アンテナを米DSN(ディープスペースネットワーク)のマドリッド局に引き継ぎ、ここで、LGAの電波が周期的に変化していることが判明した。

これは、探査機が10分間に1回転(0.1rpm)というスピン状態になっていたためだ。「あかつき」は本来、リアクションホイールを使って姿勢を自由に変えられる「3軸制御」の探査機であるが、何かのトラブルが発生して危険と判断したときには、探査機は安全のために、物理的に安定なスピン状態の「セーフホールドモード」に自動的に切り替わる。「あかつき」はこの状態で発見されたのだ。

ここで、再びMGAへの切り替えを試し、通信の確立に成功した。ただし、MGAは高速な反面、電波に指向性があるために、通信ができるのは10分間のうちのわずか40秒。この状態のまま、17時過ぎにはスピン安定から3軸制御に戻すコマンドを送ったものの、移行せず。これは、探査機の位置が予想した場所からずれていたため、地上からのコマンドが届かなかったためと推測されている。

現状、分かっているのはここまでだ。当初は、3軸制御への移行を急いでいたが、現在は、まずテレメトリの取得を優先させる方針。通信は再びLGAに切り替えられており、受信に時間はかかってしまうが、翌8日の昼頃までには、詳細な状態が判明する見込みだ。

メディア側もプロジェクトチーム側も、最も気になっているのは探査機の軌道だろうが、これも今のところ、確実なことは分かっていない。探査機の軌道を知るためには、電波を使って、探査機の位置と速度を知る必要がある。この変化を追っていくことで初めて探査機の軌道が計算できるのだが、それには時間がかかる。これも、判明するのは昼頃になる模様だ。

OMEの噴射は720秒間実施して、周期が約4日、遠金点が18~20万kmの軌道に投入、その後、徐々に遠金点を下げて、最終的には周期が約30時間、遠金点が8万km、近金点が550kmの軌道に入れる計画だった。いつセーフホールドモードに入ったのかは現時点で判明しておらず、もしOME噴射の途中であれば、軌道が大きくずれている可能性もある。

ただし、もしOMEの噴射が途中で中断してしまっても、最低でも560秒間続いていれば、周期が50日、遠金点が110万km程度の大きな楕円軌道に入り、そこからの軌道修正も可能だ。しかし万が一、それよりも短時間で終わってしまったときには、金星の重力圏には入らずに、「あかつき」は通過してしまう。

新たな情報が入り次第、マイコミジャーナルでは続報をお届けする予定だ。