宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月8日、記者会見を開催し、問題が発生している金星探査機「あかつき」の状況について説明した。金星周回軌道への投入だが、これには失敗。現在、太陽を回る軌道に入っているが、6年後に再接近するチャンスがあるということで、JAXAは金星への投入を諦めていない。

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同日11時過ぎに開催された記者会見には、「あかつき」の中村正人プロジェクトマネージャに加え、JAXA宇宙科学研究所の小野田淳次郎所長が出席。小野田所長は、「あかつき」の金星周回軌道への投入失敗を発表した上で、今後JAXA内に調査チームを発足させて原因を究明していくことを表明した。

続いて中村プロマネより、現状についての報告があった。以下に、これまでに分かった内容をまとめる。

まず「あかつき」の現在の軌道だが、前述のように、金星の周回軌道には入っていない。「あかつき」は、軌道制御エンジン(OME)を720秒間噴射して、周期が約4日、遠金点が18~20万kmという楕円軌道に入れる計画だったが、噴射の途中で異常を検知してセーフホールドモードに入り、噴射が中断したと見られている。軌道については、今朝3時過ぎに米ジェット推進研究所(JPL)からデータが届き、計算の結果明らかになった。

噴射の途中でセーフホールドモードに入った原因はまだ分かっていないが、噴射のかなり早い段階だった模様で、燃料を加圧するガスの残量などからも、およそ2~3割の噴射時間だったのではないかと見られている。8割程度の噴射時間でも、長楕円の周回軌道には入れるはずだったが、大幅に下回ったために十分な減速が得られなかった。現在、「あかつき」は太陽を回る軌道に入っており、これから全ての燃料を使い切っても金星の周回軌道には戻れないため、今回の投入は断念した。

軌道投入マヌーバ(VOI-1)運用のこれまでの流れ

ただし、そのまま太陽の周回を続けることで、2016年12月から2017年1月にかけて、金星に再接近するチャンスがある。今のところ、探査機自体に大きな不具合は見つかっておらず、「あかつき」はここで再度の周回軌道投入を目指すという。探査機の設計寿命を超えた運用となってしまうが、衛星の寿命に大きな影響があるバッテリについては、充電を控えるなどして劣化を抑える。

あかつきの軌道推定図(2010年12月8日11時時点の暫定値)

中村プロマネは、スタッフには「6年後まで探査機を守り続けよう」と声をかけたという。日本としては、火星探査機「のぞみ」に続き、またしても惑星探査の壁にはじき返された形となったが、中村プロマネは「やはり重力のある惑星に投入するのはなかなか難しい。だがこれは日本として、いずれどんどん成功させないといけないこと。技術を磨いていくぞと闘志をかき立てられている」と前向きだ。

探査機は現在、スピン安定のセーフホールドモードから、リアクションホイールによる3軸制御に復帰している。通信も、ハイゲインアンテナ(HGA)による高速通信(32kbps)がすでに確立しており、今後、探査機から詳細なデータを得て、原因究明を進める方針だ。

会見の最後には、こんな質問も飛びだした。「あかつき」が船だとすると、中村プロマネは船長。6年後までクルーの気持ちを前向きに保つためには何が重要か――。

「金星探査の目的は決して色あせるものではない。これから、クルーが船を変えることもあるだろうし、新しいクルーが入ってくることもあるだろう。クルー全員で心を一つにして、金星探査の重要性を認識していくことが大事だろう」(中村プロマネ)