中堅中小企業の間で基幹系システムをクラウドコンピューティング環境に移行する動きが活発化している。クラウドの企業利用というと、SFAやCRMなどの情報系システムをWebブラウザ上から利用する形態のことを指すケースが多かった。だが、クラウドの技術基盤の1つである仮想化技術が成熟したことなどにより、マスタ管理、発注管理、売上管理、仕入管理、在庫管理といったシステムについてもクラウド化する企業が増えているのだ。

サイバーリンクス リテイルネットワーク事業部開発部 流通システム1課 課長 吉田俊樹氏

そうした「基幹システムのクラウド化」の事情を知るうえで参考になるのが、サイバーリンクスが提供するクラウド型基幹システムの事例だ。サイバーリンクスは、和歌山県に本拠を置くITサービス企業で、2005年に国内初となる流通小売業向けSaaS型基幹システムを開発。現在は、その提供基盤にVMwareの仮想化技術を活用することでデータセンター内のサーバやストレージをクラウド型に移行し、中堅中小規模の小売業約60社の本部・店舗運営を支援している。

サイバーリンクスのリテイルネットワーク事業部開発部流通システム1課で課長を務める吉田俊樹氏はこう話す。

「スーパー、ドラッグストア、ホームセンターといったチェーンストアの展開では、マスタ管理、発注管理や仕入管理、在庫管理といった基幹業務をいかにシステム化して効率化を図っていくかが重要になります。クラウド型システムは、初期投資を抑えた短期間でのシステム導入や運用管理、メンテナンスの手間の軽減につながります。また、当社としても、クラウド環境の導入によって、事業規模が数億円から数百億円までの幅広いお客様のニーズに柔軟に応えることができるようになりました」

小売業向けのクラウド型基幹システム

サイバーリンクスが提供するクラウド型基幹システム「@rms(アームズ)」は、マスタ管理、発注管理、仕入管理、在庫管理、実績管理といった、小売業における本部・店舗間の一連の業務フローをカバーするものだ。インターネット経由で取引先への発注伝票データを配信したり、取引先の納品情報を確認したりといった、従来のクライアントサーバシステムとVAN環境ではできかなったような電子データ交換が可能になっている。当然のことながら、利用企業がシステムを自社に設置して管理する必要はない。

システムの特徴として挙げられるのが、.Net Frameworkを利用して、クライアントサーバシステムに近い操作性を実現していることだ。基幹システムの場合、数値やコードをキーボードから入力するシーンが多くなるため、少なからずマウス操作がともなうWebアプリケーションでは作業負荷を高めることになりかねない。すべての操作がキーボードだけで行えるように開発されている。

また、会計管理や勤怠管理といった@rmsが標準モジュールとして提供していない機能についても、Web Service APIを利用したシステム連携ができるようになっている。自社内に設置された他社パッケージ製品との連携のほか、サイバーリンクスがホスティングする環境下での連携も可能という。

「クライアント側にはシステムを利用するためのアプリケーションをインストールするだけです。システムに必要な環境やデータはすべて当社のデータセンターにあります。ユーザー企業ごとに専用の仮想サーバを割り当てることなどにより、可用性、安全性を確保しています」(吉田氏)

データセンターのクラウド化への取り組み

こうしたシステムを提供するサイバーリンクスのデータセンターでは、どのような仮想化の取り組みが行われてきたのか。

同社は、まだINS回線しかなかった1990年代から、小売業向けにASP形式の単品分析サービスを提供してきたという実績を持っている。これは、POSデータをもとにした単品の売上げ、粗利などの分析データを翌日にはインターネット上から閲覧できるようにした当時としては画期的なサービスで、@rmsの原型とも言えるものだ(@rmsで提供されるMDツールに相当)。

その後、2001年にデータセンターを開設してからは、一般的なラックマウント型サーバを利用したシングルユーザー、シングルサーバという構成で流通業を対象としたASPサービスを展開。2005年に@rmsを開始後、2007年にブレード&SANストレージ導入、2009年に、サーバ仮想化によるマルチテナント型へと移行した。

だが、同社の対象とする小売業の事業規模は、年商数億円から数百億円と非常に幅広く、CPU、メモリ、ストレージ容量といったリソースも事業の規模や展開に合わせて柔軟に変えていく必要がでてきた。そうしたなかで、取り組みを進めたのが、サーバやストレージのリソース管理をより柔軟にする「クラウド化」だった。

「お客様の事業規模や利用形態により、必要とされるリソースは大きく異なります。例えば、CPU数は1コアから数コア、メモリは4GBから30GB、ディスク容量は10GBから500GBといったような大きな幅がある。お客様のニーズに最適なリソースをどのように見つけるか、管理の複雑性やコストをどのように下げていくかを考えたとき、クラウド環境を整備することは当然の流れでした」

では、具体的にデータセンターのクラウド化を進めたことで、サイバーリンクスと、同社の顧客にはどのようなベネフィットが得られたのか。その詳しい内容については、12月8日に開催される『2010仮想化セミナー ジャーナルITサミット』で明かされる予定だ。基幹システムにもクラウドの波が押し寄せつつあるなか、サイバーリンクスの取り組みは、大いに参考になるだろう。