アドビ システムズのビデオ制作用アプリケーション「Adobe Premiere Pro CS5」の新機能を数回に渡り徹底紹介していく本レビュー。今回は実際に筆者が行ったテレビ番組の制作をもとに制作現場で必要となる編集作業の実例を用いてPremiere Pro CS5の動作性能を検証していく。
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なお、これまでに紹介してきた「Adobe Premiere Pro CS5」のレビューは以下の通り。
情報系番組の制作現場で必要となる編集作業の実例
Premiere Pro CS5の動作性能の検証に当たっては、見てくれの派手さに惑わされることなく、プロビデオ制作の実践の場でどれだけ使えるかを最優先で考慮することにした。そこで実際に筆者が行ったテレビ番組の制作をもとに、そこで必要となる編集作業を想定し、いくつかの実践的な作業を抜き出して検証を行ってみた。
1、HDからSDへのダウンコンバート
最近筆者が手がけていたのは、週一で放送される30分の音楽系情報番組。予算の関係でHD制作ではなく、デジタルベータカムによるSD納品であった。ただし撮影はHDV方式のカメラを使いHDで行っていたので、編集時にこれをSDに変換しなくてはならず、その手間がかなりかかっていた。HDVのVTRにはIEEE-1394端子があるので、デジタイズ時にカメラ側でSD(DV映像)にダウンコンバートした信号をPCに送ればその手間が省けるではないか、と考える方もおられるだろう。しかしながら撮影に使えるカメラ台数と人員が少なかったため、編集時には画面の一部を拡大して見かけ上のカメラ台数を増やすというイレギュラーな手法を取り入れており、素材はHDのままPCに持ち込み、それを部分拡大しながらSD映像に変換した上で、編集作業を行う必要性があったのだ。
2、カラーコレクションによる色調統一
前述のHD素材のダウンコンバート時には、カメラ間の色調を合わせるためにカラーコレクション(以下、カラコレ)をかけていた。通常カラコレは編集の最終段階で行うことが多いのだが、この番組は撮影現場のライブハウスに多量の機材を持ち込めない状況だったので、とりあえず小型のHDVカメラによるパラ撮りを行い、後で一本化するマルチロール編集で制作していた。そのためカラコレは素材の段階でかけてしまったほうが、カットごとに適用する手間が省けて好都合となるのである。またマルチロール編集でなくとも、カラコレして色調を整えることは、映像編集では常識化しており省けない作業となる。この処理はCPUにかかる負荷が意外と大きく、またエフェクトの性質上、映像全体にかけられるものなので、これを如何に迅速に処理できるかが効率化の上で重要な要素となってくる。
3、プレビュー用のファイル作成
一通り編集作業が終わると、ディレクターや関係者にプレビューするためのエンコード作業が待っている。通常の番組編集は、10名程度が居合わせられるポストプロダクション(以下、ポスプロ)のエディティングルームを使い、ディレクターと一緒に行っていくため、プレビューはその場で完結する。しかし最近では低予算のためにポスプロが借りられず、SOHOや個人が自宅で編集したものを、後日DVDなどでディレクターやクライアントに見せる、という手法がVP制作では多くなってきているように感じる。今回手がけた番組もそうした低予算制作のひとつ。他の仕事の空いた時間を利用して協力していたこともあり、常時ディレクターが横に張り付いた状態での編集は難しかった。そこで番組のコーナーごとに分けて編集作業を行い、終わったものから順にWMVファイルに変換してネット上にアップし、確認を取ってもらうようにしていた。ご存知のようにWMVファイルに使われている圧縮はH.264に準じた重いものであり、エンコード作業にはそれなりの時間が掛かっていた。
4、デジタルカット前のレンダリング
最終的なOKが出るとデジタルカット(完パケテープへの書き出し)となるのだが、もちろんこれは、一瞬といえどもコマ落ちなどが発生してはならない緊張する一幕となる。そのため万が一を考えて、作品全編に渡ってレンダリングを施してから、デジタルカットを実行する。この時期になると完パケの納期が分単位で迫ってきて、いやおうなしに緊張感が高まる。たとえば局専用の収集便が来る16時までに支店の窓口に届けるべく、制作会社のADさんが15時くらいに筆者のもとに待機している。番組尺が30分なので、逆算すると14時30分前には絶対にレンダリングが何のトラブルもなく終了しなければならない。そんな状況なのに最終的な修正が入って、すでに14時を回っている。思い起こすのも辛いが、そんな状況が何度も起きるのがノンリニア編集の宿命である。だからこそレンダリング時間が短いということは、プロの制作現場にとって、天の恵みのように感じられる事情がある。