国立天文台を中心とする日米英メキシコの国際研究チームは、みずがめ座方向の115億光年遠方の宇宙において原始クエーサーと認められる特異天体を発見したことを明らかにした。銀河の過密領域では、クエーサーの成長が促進されると予想されているが、こういった領域で原始クエーサー候補天体が発見されたのは、世界初だという。

クエーサーは、複数の銀河が合体することで生まれる爆発的星形成銀河(モンスター銀河)の中心部において、ブラックホールが大量のガスを吸い込んで急成長することによって生じるとする仮説が有力だが、この仮説を検証するのに必要なクエーサーの前段階「原始クエーサー」はモンスター銀河の中心では、濃い暗黒星雲(ガス)に包まれていているため、可視光線の観測で発見することは困難とされていた。

研究チームは、銀河の合体が生じやすい銀河の過密領域(距離115億光年)の内部で発見していたモンスター銀河のうち最も規模が大きいものに対し、米国サブミリ波干渉計SMA、すばる望遠鏡、米国大型干渉計VLA、スピッツァー赤外線宇宙望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡、チャンドラX線望遠鏡など世界7つの望遠鏡を用いて観測を実施、濃いガスを透過する電磁波(サブミリ波、赤外線、X線)で原始クエーサーの検出に成功した。

研究チームはモンスター銀河のなかで、サブミリ波でもっとも明るいものが、原始銀河団の中心にいることに気づき、その天体を「SSA22-AzTEC1」と名付けた。サブミリ波のエネルギー量から推定される星形成活動の度合いは、天の川銀河の1000倍を超える猛烈さで、1年間に太陽4000個分の質量のガスが恒星に変換されている、きわめて特異なモンスター銀河であることが判明した。SSA22-AzTEC1の位置は右拡大図中の四角で、みずがめ座のある方向の満月ほどの大きさの領域(0.5度四方)、115億光年(宇宙年齢が現在の15%程度の時代)に原始銀河団が存在することがわかっている(出所:国立天文台)

一方、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡による可視光観測では対応する天体が見つけられなかったが、これは銀河全体が分厚い暗黒星雲に包まれているため可視光が暗黒星雲に遮られてしまうからと考えられるという。

結果、サブミリ波と赤外線の画像では、モンスター銀河全体を覆う暗黒星雲からの熱放射が検出され、同銀河の内部で凄まじい勢いで星々が誕生していることを示す証拠となった。また、X線源の全放射エネルギーは太陽の2兆倍に達し、その発生機構を自然に説明できるのは巨大ブラックホールの急激な成長だけであることから、このモンスター銀河は巨大ブラックホールの揺りかご、原始クエーサーである可能性がきわめて高いことが判明したという。

原始クエーサーが発見されたモンスター銀河をさまざまな波長で見た画像。左から、超大型干渉計VLA、アステ望遠鏡(等高線:サブミリ波干渉計)、スピッツァー赤外線宇宙望遠鏡160μm、同24μm、同8.0μm、同5.8μm、同4.5μm、同3.6μm、すばる望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡、GALEX宇宙望遠鏡。赤丸は、サブミリ波干渉計で測定した SSA22-AzTEC1の正確な位置を示す。左から2番目の図を見ると、アステ望遠鏡では雲のようにぼんやりとしか見えていなかったSSA22-AzTEC1の位置が、白い等高線で示したようにサブミリ波干渉計によって高い精度で決まったことがわかる(出所:国立天文台)

原始クエーサーは、その期間(寿命)が銀河の年齢に比べていちじるしく短いはずであるという、本来の性質に起因する理由、ならびに暗黒星雲に覆われているためそもそも発見がむずかしいという、観測技術的な理由の一方ないし両方により、観測的に極めて希少であるとされており、実際に原始銀河団のような銀河の過密な環境で見つかった原始クエーサー候補天体は、今回が最初の例となる。

原始クエーサーが発見されたモンスター銀河の周囲のすばる望遠鏡による可視光画像(左)、米国サブミリ波干渉計によるサブミリ波画像(右上)、およびチャンドラX線天文衛星によるX線画像(右下)。サブミリ波干渉計は、モンスター銀河全体を覆う暗黒星雲からの熱放射を検出している。これはこの銀河の内部で凄まじい勢いで星々が誕生していることを示す証拠だが、その一方で、すばる望遠鏡では対応する天体が検出されておらず、暗黒星雲に包まれた特異な銀河であることがわかる。X線画像では、巨大ブラックホールがガスを吸い込んで成長している証拠となるX線放射が明確に検出されているのが見て取れる(出所:国立天文台)

そのため、研究チームでは今回の発見は、原始銀河団-大質量銀河-巨大ブラックホールの形成の相互関係を観測的・理論的に理解するための、絶好の観測対象、いわゆる「実験場」となるとの期待を示している。