仮想化環境にもムダは多い

「サーバ仮想化をめぐる環境はこの5~6年で大きく変化しました。当初は、初期導入のリスクを考慮し、1台のハードウェア上に5台程度の仮想マシンを乗せる比較的統合率の低いかたちが多く見られましたが、現在は、仮想化の導入メリットを理解し、これから、統合した仮想化環境を企業としてどう最大限に活用し、適応範囲を広げていくかという段階に移っています。サーバの部分最適からITシステムの全体最適化を図るフェーズに入ったと考えています。」

ヴイエムウェア シニア システムズエンジニアの西田和弘氏

そう話すのは、ヴイエムウェアでシニア システムズエンジニアを務める西田和弘氏だ。西田氏は、2006年にヴイエムウェアに入社後、パートナーシステムズエンジニアとして主にIBMを担当し、仮想化・クラウドビジネスの立ち上げや普及、テクニカルスキルの向上に尽力してきた。VMware vSphereなどの製品群はもとより、仮想化に関するビジネス、ソリューションを技術的な視点で解説できる人物だ。

その西田氏によると、VMware製品の導入ユーザーから寄せられる声の中でここにきて増えているのが、統合したサーバをどのように有効活用し、全体最適化へもっていくべきかというものだ。大容量メモリやマルチコアCPUなど、仮想化を前提に設計されたサーバ製品が市場の主流になり、5~6年前と比較して仮想化導入の敷居は格段に下がった。だが、その反面、仮想化しただけで満足せず、"ムダ"が意識されるようになったという事情が背景にある。

「少数の物理サーバに複数台の仮想マシンを動かす場合は、仮想マシンの物理サーバへの配置を手動で管理することにより、物理サーバーの負荷分散を行い、リソースを有効活用することはそれほど難しいことではありません。ただ、物理サーバの台数が増えていくと、どの物理サーバにどのくらい負荷がかかっているかも考慮しなければならなくなります。その際に、ある部門で統合した物理サーバは全体的にCPU使用率が高いのに、別の部門で統合した物理サーバのCPU使用率はそれほど高くないといったように、統合した物理サーバごとに負荷にバラツキがでてくるのです。特定の物理サーバだけ負荷が高いため、物理サーバ全体の統合率が押し下げられるというムダが生じてしまいます」(西田氏)

もちろん、こうした"ムダ"は、CPU使用率に関するものだけではない。メモリやディスクについても同等のことが言える。例えばメモリの場合、「本来は1GBもあれば十分だが、念のために3GBを割り当てておく」といったケースはよくある。実際には1GBでも余裕があり、残りの2GBはムダに確保したことになってしまう。また、仮想マシン自体についても、「新しいキャンペーンサイトのために開発マシンを作成したが、キャンペーン終了後もそのままだった」といったケースはムダな割り当てとなる。仮想化によってサーバ統合を進めたものの、それが個別最適に陥り、全体としてリソースの有効活用ができないケースが増えていると言える。

全体最適化を見据えたサーバ仮想化のポイント

では、全体最適化を見据えたサーバ仮想化のポイントとは何か。西田氏は、「サーバ統合率の向上」と「リソースの有効活用」という2点を挙げる。

サーバ統合率の向上とは、部門サーバなど複数のサーバハードウェアを対象にトータルの統合率を上げることを指す。上述のように、サーバ統合をキャパシティプラニングが不十分なまま進めていくと、統合した物理サーバごとの負荷にバラツキがでる。こうした負荷の不均衡を全体的に均すことで、新規仮想マシンの追加や繁忙期等による一時的な負荷上昇など、新たなコンピュータリソースが必要な場合に、追加投資などをできるだけせずに、統合率を上げるというわけだ。

とはいえ、こうした作業を管理コンソールを通じて手作業で行うことは現実的ではない。メモリやCPU、HDD容量を細かく監視する必要もでてくる。そうした中、西田氏が提案するのが、物理サーバ全体のロードバランスを自動化するツールの利用だ。ロードバランスが適切に行えていれば、ムダが削減できるので統合率を向上することができる。例えば、VMware vSphereには、VMware DRS(Distributed Resource Scheduler)と呼ばれる機能がある。VMware DRSは、複数の物理サーバをクラスタ化し、クラスタ内の個々の物理サーバのリソース使用率を継続的に監視する。仮想マシンがリソースを必要とする場合、最適な物理サーバに自動的に仮想マシンを再配置することによって、クラスタ全体のロードバランスを行う手間を省く。西田氏によると、このVMware DRSを利用することで、全体で30~40%の統合率向上(1台の物理サーバ上で仮想マシンが10台稼働する環境で13~14台まで稼働させることができるようになる)が図れる場合があるという。

一方、リソースの有効活用という点では、管理ツールVMware vCenter 製品ファミリに含まれるCapacityIQが利用できるとする。CapacityIQは、CPU使用率やメモリのリソース消費量を監視・分析し、仮想マシン毎の割当量を最適化するとともに、それまでのリソース需要のトレンドを分析し、将来の需要をシミュレートして、ハードウェアの増設の時期を予測する機能を提供するものだ。

「仮想化環境のリソース管理は、経験や勘に頼る面も少なくありません。お客様の中には、きちんと根拠に基づいて、計画を立てることでリソースの有効活用を図っていきたいという声がますます高まっています。CapacityIQはそうしたニーズにこたえるものです」(西田氏)

もっとも、こうしたさまざまな管理ソリューションを導入すればそれで済むというわけではない。ITシステムを全体最適に導いてくうえでは、これらソリューションをうまく使いこなすことが必要だ。そんな中、西田氏は、12月8日に開催される『ジャーナル ITサミット 2010 仮想化セミナー』で、「仮想化を拡大していくための考え方とその設計方法」と題して、全体最適化を見据えた仮想統合基盤の構築の考え方や設計方法について講演する。技術者視点からの西田氏の具体的な提案は、仮想化の導入によって生じがちな"ムダ"の発見と、その対策、そして仮想化に基づいたITシステムの将来像の構想において大いに参考になるはずだ。