東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻の須藤祐司准教授および小池淳一教授らによる研究チームは、耐熱性に優れる低融点Ge-Cu-Te系相変化メモリ材料の開発に成功したことを明らかにした。同成果により、相変化メモリの欠点であるデータ書換消費電力を低減できるだけでなく、高温環境下でデータが消失してしまう問題を解消することが可能となると同大では説明している。

NAND型フラッシュメモリのプロセス限界が近づいていると言われる中、次世代の不揮発性メモリとして相変化材料を用いた相変化メモリ(PCRAM)やMRAM(磁性体メモリ)、FeRAM(誘電体メモリ)などの開発が進められ、一部実用化されている。

PCRAMに用いられる相変化材料は、アモルファス相と結晶相間の可逆的な変化が可能な材料であり、DVD-RAMなどの光記録媒体にも用いられている。PCRAMは、相変化材料のアモルファス相/結晶相間の電気抵抗差を利用したメモリで、相変化材料にパルス電流を流し、融点以上にジュール加熱してアモルファス化させることでリセット状態「0」とし、また、結晶化温度以上融点未満の温度にジュール加熱して結晶化させることでセット状態「1」として情報を記録する仕組みとなっている。

現在、光記録媒体で実績のあるGe-Sb-Te系化合物がPCRAM用の相変化材料として研究開発されているが、融点が約620℃と高いためデータを書き込む時に必要な消費電力が高く、また、結晶化温度が約160℃と低いためアモルファス相の耐熱性が低く、85℃程度の高温の環境に長時間置かれるとデータが消えてしまうという問題があった。

今回開発した相変化材料は、Ge、Cu およびTeからなる化合物で、融点は520℃程度ながら、約240℃の高い結晶化温度を持っている。また、アモルファス相の耐熱性を評価した所、170℃で10年間の保持が可能であり、Ge-Sb-Teアモルファス相に比べて耐熱性に優れていることが示された。結果として、Ge-Cu-Te系相変化材料を用いることで、既存のGe-Sb-Te系よりも融点が100℃程度低く消費電力を低減できると共に、125℃以上の環境下でも10年間データを保持できるため、高速USBメモリなどばかりでなく、半導体技術のロードマップであるInternational Technology Roadmap for Semiconductor(ITRS)などでも期待される自動車分野など高温環境下で使用できる不揮発性相変化メモリを実現できるようになる。

なお、研究チームでは、今後、相変化メモリデバイスを作製し、書換速度など相変化メモリとしての性能を検証していく予定としている。