キヤノンは2015年に売上5兆円規模の企業になることを目指す。その基本戦略となるのが、同社が掲げる「グローバル優良企業グループ構想 フェーズIV」である。ここでは、新たな事業の柱の育成も踏まえたこの戦略の具体的な内容について、御手洗会長がCanon EXPO 2010 Tokyoで行った基調講演の内容を引き続きお伝えする。

グローバル優良企業グループ構想 フェーズIVのスローガンは「Speed & Sound Growth(スピード&健全なる拡大)

既存事業の強化と新たな"柱"の育成がテーマ

御手洗会長は今回の基調講演で、今後の同社の業績について「2012年には(史上最高の業績となった)2007年度のレベルまで回復させ、2015年には売上5兆円を目指す」とした。

そのためにはまず「既存事業の強化が重要」とし、入力から出力までの製品を持つ同社の強みを生かし、デジタル複合機「imageRUNNER ADVANCEシリーズ」を核に高度なソリューションを提供する。これには、遠隔地との会議を実現するディスプレイボード(次世代会議ソリューション)なども含まれ、「オフィスにおけるあらゆるシーンの要望に応えるソリューションを幅広く展開する」(同氏)という。

また同社は、買収によって今年から同社グループ入りしたオセとの協力により商業印刷(プロダクションプリント)分野の事業強化を図り、既存の大判プリンタ分野における相乗効果の実現を狙う。

デジタル複合機「imageRUNNER ADVANCEシリーズ」を核としてソリューションビジネスを展開

さらに、デジタルカメラやデジタルビデオカメラを中心としたコンシューマ分野については、これまでの"No.1"戦略による拡大路線の次の段階として、フォトビジネスの生産性向上支援を目的としたソリューションビジネスを展開する。

メディカルと産業機器分野は、「新たな事業の"柱"」として育成し、2015年にはメディカル分野を売上1000億円規模の事業に育て、将来的には産業機器分野とあわせて、「これらの"新たな柱"を1兆円規模の事業にしたい」(同氏)としている。

同社の得意領域であるイメージングソリューションなどを武器に、メディカルの分野に注力。2015年に売上1000億円規模を目指す。米国ではDNA診断装置の分野にも進出

これら既存事業の強化と新たな事業の"柱"の育成には、「編集力」によるイノベーションも重要だという。同氏は「iPodやiPhoneなどは、基本技術の独自に組み合わせることによって市場から大きな支持を得る製品が生まれた好例」(同氏)とし、同社としても様々な既存の生産装置を使って新しいモノを作るべく、社内でチームを立ち上げて「想像力あふれる創造的な製品を作るために勉強中である」と説明した。

セル生産を進化させた「マシンセル」を開始

今回の基調講演で「世界最高の生産システムの構築」が日本の製造業の新たな成長のカギであるとした御手洗会長は、同社としてもその試金石となる「マシンセル」と呼ばれる新たな生産方式を開発し、今年3月から創業を開始した長崎キヤノンでこの方式を採用し、デジタルカメラの製造を開始している事実を明らかにした。

同氏によれば、この新たな生産方式は高能率・高付加価値の「先進国型の製造ビジネスモデル」だという。「これを順次国内のすべての工場に展開して製造拠点の強化を図るとともに、雇用の創出や産業の振興に貢献したい」としている。

また同社は、すでに米国の製造拠点 キヤノンバージニアにおいてトナーカートリッジの消費地生産を行っており、生産から消費、リサイクルに至る製品のライフサイクルの域内完結を実現している。同氏は「今後はこのような消費地生産の品目を増やす」とし、「"組み立て型"は長崎キヤノン、"プラント型"はキヤノンバージニアの方式を適用する」という方針のもと、生産部門における変革を図るという。

セル生産チームに多数の自動化設備を導入した「マシンセル」生産方式でデジタルカメラ製品の製造を行う長崎キヤノン

トナーカートリッジの製品ライフサイクルの域内完結を実現しているキヤノンバージニア

御手洗会長は最後に、同氏がキヤノンUSA駐在時代に多くのことを学んだとされるGEやシティコープ、IBMといった"エクセレントカンパニー"の例に触れ、「創造的破壊を繰り返し実行し、地域にも愛され、いまもなお成長を続けているこれらの企業に学び、キヤノンも変革への勇気を持って変身を繰り返し、世界各地で尊敬される企業にしたい」との夢を語って講演を締めくくった。