米Dellは9月、仮想化が進むデータセンターのITリソースを効率よく利用するためのアーキテクチャ「Virtual Integrated System」を発表した。同アーキテクチャはデータセンターの「インフラの管理」や「アプリケーションの展開の標準化・自動化」を実現する。これまで大手ハードウェアベンダーとしてビジネスを展開してきた同社だが、データセンターの運用管理という新たな分野に踏み出すことになる。今回、米Dell グローバルデータセンターマーケティング ディレクターのブライアン・ジョーンズ氏に、同アーキテクチャについて話を聞いた。
IT変革においては技術・プロセス・ヒトのバランスが大事
同氏はまず、「IT業界のトレンドデルはクラウドコンピューティングを「進化型」と「革新型」の2種類に分けてとらえており、世間で言われている表現を使うなら、前者は"プライベートクラウド"、後者は"パブリッククラウド"と言える」と説明した。
革新型クラウドでは、アプリケーションのリアーキテクチャとリエンジニアリングが必要となるが、プロバイダーのプラットフォームに依存しているという課題がある。これに対し、進化型クラウドでは、既存のリソースやアプリケーションをリエンジニアリングする必要がある。
同氏は「企業のITマネジャーは革新型クラウドと進化型クラウドを部分的に取り入れていくべき」と述べた。
クラウドコンピューティングは2つのモデルに分けられるが、いずれも方向性は一緒であり、「双方のモデルに対してユーザーが求めているものは同じ」と、同氏は言う。
「ユーザーはクラウドコンピューティングに対し、"運用管理の統合"、"運用管理の自動化と高度化"、"柔軟なリソースの利用"、"シンプルなセルフサービス"などを望んでいる」
こうしたITの変革を実現するには、「テクノロジー以外に、ビジネスプロセスとヒトにフォーカスを当て、三者のバランスをとらなければならない」と、同氏は指摘する。
「Virtual Integrated System」はデータセンターの課題に対する解
同社はこうしたITの変革における課題をデータセンターの変革としてとらえ、その具体的なアーキテクチャとして、「Virtual Integrated System」を提示しているというわけだ。
同アーキテクチャは、インフラのためのツール「Dell Advanced Infrastructure Manager」、ワークロードのためのツール「Dell VIS Self-Service Creator」、運用管理のためのツール「Dell VIS Director」の3つのツールから構成される。
同氏は、同社が同アーキテクチャを介してハードウェアとヒトを結ぶ役割を果たすと説明した。「ユーザーはいかに少ないリソースと時間でデータセンターを構築できるかということを求めている。それを実現するには、新たなソリューションが必要ということになり、Virtual Integrated Systemが生まれた」
サーバ・ストレージ・ネットワークの統合管理を実現
ハードウェア側のツールが「Advanced Infrastructure Manager」となる。同氏は「従来のソリューションは時代遅れ」と訴える。「エンドユーザーがIT部門に新たなアプリケーションを使いたいと申請したとしよう。従来のシステムであれば、アプリケーションが使えるようになるまでに4週間から6週間かかるだろう。しかし、現在はクレジットカードでサービスが買えてしまう時代なのだ」
サーバ、ストレージ、ネットワークから構成される従来のシステムはサイロ構造になっているため、アプリケーションの展開に時間がかかってしまう。「こうしたインフラの"バリア"を取り払うのがAdvanced Infrastructure Manager」と、同氏は主張する。「Advanced Infrastructure Managerは異機種のハードウェアによる物理環境と仮想環境を同時に管理できる。ワークロードも物理環境と仮想環境の双方においてマイグレーションが可能だ」
さらに、同ツールはヴイエムウェア、マイクロソフト、Xenと主要な仮想環境をサポートする。「他社の製品はヴイエムウェアのみにフォーカスしていることが多いが、われわれは違う」と、同氏は同社のオープン性をアピールする。
ちなみに、同アーキテクチャはデルの製品がなくても稼働するという。同氏がこのことを顧客に話した際、「デルらしくない」と驚かれたそうだ
ソリューションベンダーへのシフトはユーザーからの要請
しかし、これまでPCにはじまり、サーバにストレージと、もっぱらハードウェアベンダーとして地位を築いてきた同社が、このようなソリューションを取り組むことをユーザーはすんなり受け入れるものだろうか?
この疑問を同氏にぶつけたところ、「われわれが今、企業変革を行っていることは確かだ。しかし、ハードウェアベンダーとして成功したデルがソリューションを提供することは、顧客が望んでいること」という答えが返ってきた。
「われわれはハードウェアにおいて実現したことを、今度はユーザーサイドで実現しようとしている。これは、得意とする分野を拡大しようとしていることにすぎない」
また同氏は同アーキテクチャの強みについて、「Virtual Integrated Systemは導入するにあたり、既存のシステムに統合することになる。不要なものが生まれず、新たなハードウェアはまったく必要がない」と語る。
Virtual Integrated Systemは買収したサーバ仮想化管理ツールベンダーのScalentの技術をベースに作られたものだ。ただし、Virtual Integrated SystemはScalentのツールだけでなく、Scalentとデルの技術を統合したツール、デル独自で開発したツールも含まれている。4日に同社はSaaSベンダーであるBoomiの買収を発表したばかりだが、今後もVirtual Integrated Systemを推進するにあたり、買収は続けていくという。
米国ではAdvanced Infrastructure ManagerとDell VIS Self-Service Creatorはリリースされているが、国内ではこれからのリリースとなる。ハードウェアを核に運用管理分野に進出しようとしているデルの製品が、日本市場でどのように受け入れられるのか見守っていきたい。