CM制作と映画制作。このふたつは同じ映像制作でありながら、表現、時間、予算などの面で大きな違いがある。映画『さらば愛しの大統領』で、世界のナベアツとともに初の映画監督に挑んだ柴田大輔監督は、これまでに、舘ひろしや明石家さんまを起用した「GEORGIA」や南明奈出演の「MATCH」、最近ではマツコ・デラックスの妊婦姿が話題になった「フジテレビ秋の改編キャンペーン」などのCMを手がけた敏腕CM監督だ。そんな柴田監督は映画制作を"マグロ漁船のようなもの"と例えた。その真意とは?
――まず、この作品の大まかな制作スケジュールを教えてください。企画が立ち上がった時期は?
柴田大輔(以下、柴田)「2009年7月頃から脚本の打ち合わせを始めました。暑い中ずっと吉本興業の東京本社で打ち合わせをしていたのを覚えています(笑)。この頃から僕はCM制作を一度すべてやめて、2010年3月まではCMを一本も撮らず、この作品制作に絞ってやっていました。スケジュールを大まかに説明すると、脚本3カ月、撮影準備2カ月、撮影2カ月。仕上げ3カ月といった感じですね」
――監督の初映画監督作品であると同時に世界のナベアツさんとの共同監督作品でもありますよね。実際、撮影現場ではどのように役割分担をしていたのですか?
柴田「脚本・制作は、僕とナベアツさん、脚本家の山田慶太さん、脚本協力の遠藤敬さんの4人で主に行ったので、その段階でナベアツさんと意思は共有できているという認識でした。なので、実際に撮影に入ってからはメールや電話での微調整はしましたが、基本的に僕が指示や演出をすべて行うという形でしたね」
――撮影していくなかで、柴田監督が手がけているCM制作と「ここがCMとは違うな」と感じた部分はどういったところですか?
柴田「当然かもしれませんが圧倒的に物量が違いますよね。単純に作品の長さが90分ということだけでも撮影にかかる期間や人数、準備などがCMよりも断然長くなるわけで。それに対して自分の気持ちと体力が持続できるかどうかが心配でした。CMの撮影期間は基本的には1日か2日なんです。しかし映画ではそれが2カ月も続いたわけですから」
――なるほど、確かにCM制作に比べ、映画制作は拘束時間が長くなりますよね。
柴田「CMの場合は制作期間中も社会生活が送れるんですよ。『今日は金曜日の夜だ』、『明日は土曜日だ』という認識のなかで作業をしているんです。でも、映画の制作中はそういった感覚が一切排除されてるんです。例えるならば、"南極観測隊"や"マグロ漁船"といったイメージなんですよね。もう完全に何十人かで社会から離れて、この映画制作がひとつの"社会"になってしまうような感覚なんです」
――よくCMと映画では予算面に大きな違いがあると聞きますが。
柴田「CMの場合、撮影は1日か2日だから夜中の0時を過ぎてもロケを続けるんです。そして、すべての撮影が終了したらスタッフ全員をタクシーで帰らせる。でも映画製作の場合、予算の都合上、スタッフを毎晩タクシーで帰らせることはできないので、終電までに撮影を終わらせなくてはいけません。そのため、撤収にかかる時間やスタッフを駅まで送る時間を考慮して、『このシーンは23時までには終わらせてくれ』とプロデューサーに言われるんです。もし、その時間までにシーンを撮りきれなかった場合はすべて監督の責任になり、さらに『23時までに撮影できなかったらそのシーンはなしです』ということになる。それがまた凄いなと(笑)。CM撮影だったらそういうことは絶対に有り得ません。『このワンカット撮らせてよ』といったら撮らせてくれるんです。でも映画の場合は『このキャストが揃うのは今日しかないから、終電までに全部撮り終えてくれ』と当たり前のように言われるんですよ」
――映画制作の方が色々と自由度が高いイメージがありましたが、実際はそうでもないんですね。
柴田「映画には"表現の規制"はありませんが、"時間の制約"があるということですね。物理的な要因の制約があるんです。例えば劇中で、ボスがいる部屋と取調べ室が出てくるのですが、この場合CMだったら間違いなくふたつのセットを作ります。ですが、映画の場合は照明やカメラアングル、美術に違いをつけて同じセットをなんとか違う空間に見せることができないかと考えるんです。そういった面はかなり勉強になりましたね。また、テイク数に関しても、映画の場合1カットに対して大体1、2テイクでOKを出さないといけないんです。CMだったらテイク15、16くらいまで行うのが普通なんですが、『映画でそれをやっていたら終わらないよ』と」