ここ数年、日本ではビジネス・インテリジェンスの"第2の波"が押し寄せ、主要ベンダーから製品の提供が相次いでいる。そうしたなか、ビジネス・インテリジェンスから、その先を行くビジネス・アナリティクスを標榜するベンダーが出てきた。
SAS Instituteは、データの分析にとどまらず、さらに将来を予測することで、ビジネスの課題を解決する「ビジネス・アナリティクス」のパイオニア的存在だ。同社は競合に対してどのようなアドバンテージを持っているのか?
今回、同社の創立者兼CEOであるJim Goodnight氏に「同社が注力している技術分野」「ビジネス・アナリティクスの展望」などについて聞いた。
-最近、オラクルがオンライン・トランザクション処理アプリケーション向けのハードウェアを発表したが、SASではリアルタイム・プロセッシングにどのような形で取り組んでいるのか?--
Goodnight氏: もちろん、われわれもリアルタイムコンピューティングにはすでに取り組んでいる。例えば、HSBC(香港上海銀行)から、リアルタイムで膨大な量のデータの処理が行われるクレジットカードの取引処理を請け負っている。また、インメモリ・データベース技術にも取り組んでいる。インメモリ・データベーとは、データベースの各ノードを通過するすべてのスコアを取得する技術だ。データをまとめて取得することで、処理速度の高速化を量っている。そのほか、ヒューレット・パッカードのブレードサーバ・システムを用いて最適化を図っている。
-今後、ビジネス・アナリティクスはどのように発展していくのだろうか?--
Goodnight氏: 注目すべき分野としては「ソーシャルメディア」がある。ソーシャルメディアはあらゆる企業のビジネスに関わりがあると言ってよい。なかでも、企業のブランドについて責任を負っているマーケティング部門はソーシャルメディアから得るものが大きいだろう。
ただ、最も大事なことは「顧客が何を望んでいるか」を理解することだ。これにより、企業がどこに投資をしようとしているかを把握することができる。1つ例を話そう。
カタリナ・マーケティングという企業は、消費者の購買履歴をとってそれに基づいてクーポンを発行するというビジネスを行っている。こうしたビジネスは5年前なら思いつかなかったものだ。というのも、近年、CPUのコアが進化するとともに、コンピュータの処理速度もアップしたから、こうしたことが可能になったのだ。これからはさらにデータの処理速度が上がっていくだろう。
--SASは昨年に7,000万ドル規模のクラウド・コンピューティングのための施設の建設について発表を行ったが、クラウドに対する認識を教えてほしい--
Goodnight氏: クラウド・コンピューティングには5年前から取り組んでいるが、そもそもクラウドは60年代の「タイムシェアリングシステム」、70年代にIBMが言い出した「バーチャルコンピューティング」と似ており、新たな考え方ではない。クラウドで利用するのに適しているアプリケーションやシステムとしては、テスト用のアプリケーションやデモシステムがある。
--SASは毎年、売上の25%を投資するなど、研究開発に力を入れているが、今後、さらに注力しようと考えている分野について教えてほしい。今年初めに、アクセンチュアと提携を発表したが--
Goodnight氏: まずは、ソーシャルメディアの解析がある。これに加えて、Web上の詐欺を捕らえる「Fraud Computing」やハイパフォーマンス・コンピューティングがある。現在、アクセンチュアと共同で新たなアプリケーションの開発を行っているところだ。
--今年はFortune誌の「最も働きがいのある会社ベスト100」のトップに選ばれたが、従業員の方々はSASのどのような点を気に入っていると考えているか?--
Goodnight氏: SASはいわば10年から15年前の日本の企業というイメージかもしれない。なぜなら、従業員同士がお互いに尊重しあっているからだ。また、研究開発への投資を継続的に行っているので、常にチャレンジを課されているということも評価されているかもしれない。ITベンダーにとって、「チャレンジを続ける」ことは大切だ。そのほか、託児所や医療施設が整備されていることが気に入っている社員も多いだろう。