ストレージ向けSoCに特化するファブレスベンダ
10月18日にルネサス エレクトロニクスとSSD向けSoCの開発・製造に合意し、翌週の10月25日にはHDD向けSoCのサンプル出荷を開始するなど、10月に入り立て続けにストレージデバイス向けSoCに関する発表を行った米LinkAMedia Devices(LAMD)。同社は2004年3月に設立された比較的若い半導体ファブレス企業である。同社Chairman&CEOのHemant Thapar氏に話を聞く機会を得たので、何故同社がストレージデバイス向けSoCに注力するのかなどについて伺ってみた。
同氏は同社を設立する以前は、通信機器や信号処理用アナログ/デジタル混載チップの設計、開発を手がけるDataPath Systemsの創業者でありCEOであった。DataPathは1994年に設立され2000年にLSI Logic(現LSI)に4億2000万ドルに買収されるまで6年間、Seagate Technologyと取引を行っており、4年連続でSeagateのNo1サプライヤを記録したこともある。
こうした経験を元に、新たにHDD/SSD向けSoCの設計・開発を行うLAMDを設立したということだ。現在の社員はワールドワイドで127名。その内90%が研究開発などを行うエンジニアという。2010年には日本法人も立ち上げたほど「日本市場は重要な地域」とのことで、その背景には「主用カスタマも日本に複数居る」とするほか、「LAMDには多くの企業や投資家が出資している。日本の企業からも出資を受けている」ということがあるとのこと。
DataPath時代から培ってきたミクスドシグナル技術やシステムアーキテクチャを背景に、多くの投資家や企業からの出資を得てビジネスを推進している。ちなみに、ルネサスのほか、SeagateやMicronなども資金を提供している |
特に同社のSoCの製造をルネサス エレクトロニクス1社が担当しているということも日本地域を重要視する1つの要因となっている。ちなみにルネサスは同社に対する出資企業の1つでもある。
半導体のファブレス企業が製造委託を行う先というと、最大手の台湾TSMCが思い浮かぶが、これについて同氏は「DataPath時代から出資を受けるなど長い間、関係を構築してきた(事実、1998年の12月に1500万ドルを出資するというアナウンスをNECが英文で発表している)」ということもあり、同社設立当初はやはりTSMCなどへの委託も検討したが、同社が求める高い品質と供給能力、仕様などへの対応力などを考えるとルネサス(NECエレクトロニクス)へと回帰するに至ったとする。また、「競合各社がTSMCを使っていることもあり、差別化という意味もある」とするほか、「完全なソリューションとして1社でウェハ製造からパッケージ、ODMまですべて供給してくれるので、そうした意味ではLAMDにとっても、我々のカスタマにとってもありがたい企業」という存在となっているようだ。
新製品でビジネスチャンスを掴む
ここ最近の新製品発表の動きについて同氏は、「現在はHDD/SSDのコントローラ技術が次世代への移行期」であることを指摘、そうした状況はビジネスを拡大するチャンスであるとする。HDD市場は適用デバイスがPCやサーバだけだったのが、HDDレコーダなどのコンシューマ用途へと拡大を続けており、2010年から2014年までのCAGRで6%程度の伸びが見込まれている。特に2.5インチの市場の伸びは大きいと同社では見ている。また、それ以上に伸び率が高いのがSSDの市場。「まだ市場規模は小さいが、大きな成長が見込める市場で、将来的にはHDDに匹敵する規模になる」との見方を示す。
HDD/SSDの適用範囲が拡大するのとあわせて、その記録容量も増大を続けてきた。すでに3.5インチのHDDではWestern Digital(WD)が3TBのモデルを発表するなど、GBからTBへと世代が本格的に移行してきており、「プラッタのデータ高密度化により、正確なデータの読み出し性能が求められるようになってきた。しかし、従来のリード・ソロモン符号による誤り訂正処理では、パワー不足だ」と同氏は指摘する。また、SSDも半導体のプロセス微細化に併せて、その容量を増大させてきているが、代わりにセル寿命は短くなるなどの課題が生じてきており、「こちらもBCH符号による誤り制御が行われているが、やはりパワー不足だ」とのことで、「長寿命化やLDPC(Low-Density Parity-Check)符号による誤り訂正技術を取り入れた我々の製品が競合製品に比べ優位に立てる」ことを強調する。
特に、4KBブロックLDPCを搭載したSoCについては、HDDが従来の512Bセクタから4KBセクタへと対応を進めているのに対応するもので、同社としては第3世代のHDD用SoCとなる。ちなみに第1世代は512B×8セクタで4KBを構成、第2世代は1KB×4で4KBを構成していたが、第3世代では4KB×1による構成となっており、「これにより、512B×8で4KBブロックを構築するのに比べ、ECCなどのオーバヘッド部分が減るので、結果としてデータ領域は5~11%程度増加させることが可能となる」としており、これにより信号処理の容易化が可能となるという。
また、同技術は容量の増加だけでなく、大きなエラーに対する訂正も可能とした。プラッタ表面に汚れや傷が付けば、そこのデータは欠損状態となり読めなくなるが、セクタサイズが小さければ、その損傷も小さいものしか対応できない。4KB一括のセクタサイズにより、「より大きなデータ損傷の訂正も可能となる」とのことで、第1世代と第3世代を比べると8倍程度のデータの効率化が可能となるという。
極端な話だが、例えば『0100101010101010』というデータ列がある場合、512B×8ではそのうちの2つしか訂正できなかったのが、4KB×1ではすべてを訂正できるようになるといったように、データ修正範囲を格段に広くとることが可能となるとする |
ちなみに低消費電力化にも配慮しており、マイクロアーキテクチャの工夫に加え、ルネサスの45nmプロセスを採用することで、パフォーマンスの向上と低消費電力の両立を実現しているとのこと。
こうした特長により、「1プラッタあたり500GB以上の容量を2.5インチサイズのHDDでサポート可能で、3.5インチであれば1TBもサポートできる」とする。すでにサンプル出荷を開始しており、2011年第1四半期には量産出荷が開始される予定となっている。
一方のSSDについても「過去4年間、ノイズ特性やデータの劣化、寿命要因などの研究を行ってきており、NAND型フラッシュメモリの特性の理解を進めてきた」とし、LDPC技術と組み合わせることで、高い信頼性を実現しながら、低コストなSoCを出して行きたいとの展望を示す。
なお、同社は2010年8月31日にQualcommの設立者の1人であるAndrew James Viterbi氏をボードメンバーとして向かえており、今後は同氏のこれまでの知見なども活用してストレージ向けSoCのリーディングカンパニーとしての地位を高めて行きたいとし、将来的にはSSD以外のフラッシュメモリアプリケーションなどへの対応も図っていければとの希望を示してくれた。