IBMは先日2010年度第3四半期の連結決算を発表したが、System xサーバ製品は前年同期30%増と大幅成長を果たした。好調なSystem xシリーズだが、今年は第5世代のサーバアーキテクチャ「第5世代エンタープライズ X-Architecture(eX5)」を搭載する新製品群が発表された。eX5はCPUの仕様を超えた容量のメモリの搭載を実現し、サーバ仮想化に大きなメリットをもたらす。今回は、日本アイ・ビー・エム システムx事業部 ITスペシャリスト 岡田寛子氏に、eX5テクノロジーの特徴とその導入メリットについて話を聞いた。
CPUの"メモリ容量"の壁を超えるeX5
同氏は初めに、サーバの性能向上を妨げるCPUとメモリの関連性について説明した。「現在、CPUの性能の向上により、平均使用率はこれまでの約半分にまで下がり、負荷が最も高い時でも使い切れていません。その一方でメモリの使用量はこの3年間で約2倍に増えています」
ならば、単純にメモリを増やせばいいだろうと思うかもしれないが、そうもいかないのだ。
eX5を搭載するサーバは、ラック型「IBM System x3690 X5」「IBM System x3850 X5」「IBM System x3950 X5」、ブレード型「IBM BladeCenter HX5」の4製品だが、いずれもCPUには8コア・プロセッサのインテル Xeon プロセッサー 6500/7500番が採用されている。インテル Xeon プロセッサー 6500/7500番を含むNehalem世代以降のCPUはメモリーコントローラーを内蔵しているため、搭載できるメモリの容量には制限があるのだ。
こうしたCPUの壁を取り払ったのがeX5である。eX5はメモリ拡張ユニット「Memory Access for eX5(MAX5)」を接続することで、メモリを大幅に増やすことができる。x3690 X5にMAX5を接続すれば、DIMMスロットは本体の32基にMAX5内の32基を加えて64基まで増やせる。同様に、x3850 X5の場合は96基までDIMMスロットを増やすことができ、1テラバイト以上のメモリ容量を搭載できる。
メモリの大容量化がもたらすメリットとは?
なぜ、同社がここまでメモリの大容量化にこだわっているかというと、サーバ仮想化ではパフォーマンスがメモリ容量に左右されるからだ。サーバ仮想化はサーバ統合に加え、クラウドコンピューティングの要素技術であり、今後企業においてはますます重要性を増していくことは必至である。
大容量のメモリの搭載はパフォーマンス向上のほかにもメリットをもたらす。まず、メモリが多ければ多いほど、より多くの仮想マシンを1台のサーバ上に構築できるため、サーバの台数の削減によるコストカットが可能になる。また、サーバの台数の削減は運用管理の手間の低減にもつながる。
また同氏は「ソフトウェアライセンスも削減できる」と指摘した。「通常、ソフトウェアのライセンスはCPUに対してかかってきます。ですから、同じメモリ容量で比べた場合、他社のサーバに対してeX5搭載のサーバはCPUの数を抑えることができるので、ソフトウェアのライセンスに要するコストも削減できます」
さらに、「これから出てくるWindows 2008 ServerはこれまでのサーバOSに比べて、必要なメモリ容量が増えます。サーバ購入時にはOSの動向も考慮に入れる必要があります」と同氏。
随所に見られるIBMならではのハードウェアに対するこだわり
MAX5はQPIというケーブルでサーバ本体と外部接続する形で増設できる。データ転送のスピードを考えると、「なぜ外部接続なのか?」と思う方もいるかもしれない。
本社の技術者に聞いた話として、同氏は次のように説明してくれた。「サーバ本体の基盤上で接続すると、配線の間の距離が近すぎてノイズが発生してしまいます。基盤上での接続のほうが外部接続よりも技術的には易しいそうですが、安定性をとって、あえてケーブルによる外部接続という方法を選択したそうです」
また、もともとX-Architectureにメモリの信頼性を向上させるための技術として、「Memory ProteXion」を提供している。というのも、メモリの故障はハードディスクや電源の故障以上に、サーバダウンの原因となりかねないからだ。。
同氏はMemory ProteXionを「メモリのビットエラーからサーバを守る技術」と表した。「Xeon 5600を搭載するサーバでは、異なるメモリチップから生じた2ビットの誤りだけで障害が発生します。Xeon 7500を搭載するサーバでは8ビット+1以上の誤りで障害が発生します。これらに対し、Memory ProteXionを提供するeX5搭載のサーバでは、2つのメモリチップが完全に故障した状態で稼働を続け、エラーも検出し続けます」
つまり、eX5ではインテルのCPUの機能を最大限に活用しつつ、その弱点を補っているというわけだ。
eX5から話は少し外れるが、同社のハードウェアに対するこだわりは随所に散りばめられている。同氏は「お客様に当社のサーバの内部をお見せすると、"すごくきれいだね"と言われます。例えば、メモリの後ろにCPUが整然と配置されているのですが、これは空気の流れを考えてのものです」と説明した。System xでは、キャリブレーテッド・ベクタード・クーリングという技術によってサーバの冷却を行っている。
そのほか、よく見るとボード型の機器は脇に長方形の穴を持っているが、機器によって穴の位置や数が異なっているのだという。
今だけでなく将来を見据えたサーバ購入を
最後に、同氏にサーバ購入にあたってのアドバイスを聞いてみたところ、「現在必要なリソースだけでなく、将来必要となるリソースを踏まえて、サーバを購入してください」という答えが返ってきた。
確かに、インタビューの間、同氏の口からは「将来を考えると……」という言葉が何度も出てきた。x3690 X5は最大250台まで仮想マシンの構築に対応しているが、「そんなに仮想マシンが必要な企業はたくさんあるのでしょうか」と聞いたところ、「もしかして今はそれほど必要ないかもしれません。ですが、クラウドを導入するとなると、利用する仮想マシンの数は一気に増えます。その時、サーバをわざわざ買うよりは、拡張できる状態にしておくほうがプロジェクトにかかる時間も短縮できますし、コストも抑えられます」と、同氏は述べた。
メモリを拡張するだけで処理性能を大幅に向上させられるというのは、企業にとって作業効率およびコスト効果の双方においてメリットは大きいのではないだろうか。
これまで説明してきたように多くのメリットを持つeX5搭載サーバではあるが、技術的にも面白い製品となっている。ハードウェア興味がある方は、一度その内部を見せてもらうだけでも価値はあるだろう。