Javaの開発環境において「マルチプラットフォームでは実現が難しい」とされているGUI(Graphical User Interface)で、帳票デザインからデータソースの設計までを一貫して行えることで定評がある帳票開発ツール「Elixir Report (エリクサーレポート)」。大量出力と安定運用を実現できることから、同ツールは公共機関やメーカーなどの大規模システムにおいて採用されている。今となってはすっかり日本市場に定着している「Elixir Report」だが、ここまでの道のりは長かったようだ。ここでは、グレープシティで長年同製品のサポート業務を担当してきた大島章太郎氏に話を聞いてみた。
"不要"と判断すれば、あえて日本語版のリリースを見送ることも
大島章太郎――グレープシティ ツール事業部 テクニカルセールス。「海外から来ている外国人と一緒に仕事をしたり遊んだりする状況が楽しい」と語る、日本文学専攻!? のITエンジニア |
Elixir Reportは、シンガポールのElixir Technology社が開発している製品だ。大島氏によれば、グレープシティが同ツールの日本語版を初めてリリースした当時(2003年)は、日本では"当たり前"とされている「ウォーターマーク」(透かし)に対応していないなど機能の実装が十分とは言えず、「帳票に対するユーザーの要求レベルが高い日本市場では、まだまだ完成度は低かった」と語る。
では、どのようにして同社は製品の品質について、「今のバージョン(Ver7.7)に対しては"日本の帳票ツール"としての自信を持っている」(同氏)というレベルにまで引き上げることができたのか?
同氏はこの点について、「開発元に要求を出して、バージョンアップを重ねるという、当たり前のプロセスを経たから」とあっさりと話すが、この"当たり前"のことを実行するのは、実は簡単なことではない。
海外製品に日本市場の要望を反映してもらうには、「販売代理店」という契約関係の枠を超えた、相互の理解と信頼関係の構築が不可欠となる。同社の場合は、「単にローカライズするだけではなくサポートにも注力し、ユーザーの要望を開発元に要求する。そして、次期バージョンではさらにいい製品をリリースするというフローが徹底されている」ということが、開発元との長期的な信頼関係の基盤となっているという。
日本のユーザーに対する真摯な姿勢は、「開発元が機能を追加して製品をバージョンアップしても、その機能が"日本市場では不要"と判断した場合は日本語版のリリースを見送る」(同氏)というほど徹底している。そのため、海外で販売されているElixir Reportと日本で販売されているElixir Reportは異なる場合があるとのことだ。
このような背景からElixir Reportは継続ユーザーが多いことが特徴となっており、「製品がどんどん良くなっていく」ということに関してユーザーからの評価は高い。
「言葉ができる」だけじゃ本音でモノを言い合えない
同社はインドや中国にも拠点を構えており、英語や中国語に堪能な人材が多い。このような背景も、日本市場の要望を製品に迅速に反映させることができる理由の1つとなっている。
ただしこれは、単に「言葉が話せればいい」ということではない。
大島氏はつい最近まで、同社中国拠点で製品のテスト業務や日本との橋渡し役を担っていた。「海外では、あくまで仕様書ベースでビジネスが行われますが、実際には、仕様書に明記されていることだけではできない仕事がたくさんあります」と語る同氏が現地で注力していたことは、「仕様書の枠を超えてよりよい機能にブラッシュアップすることだった」という。そのためには「言葉」ではなく、本音でモノを言い合える「文化」の理解が必須。
「例えば肉を食べる・食べない、お風呂に入る・入らないなど……お互いに気を遣うべきところ、気を遣わなくてもいいところを理解していれば、ビジネス上のコミュニケーションはもっとスムーズになる」という同氏は、趣味も兼ねて中国やインドのスタッフとともに山歩きをするなどし、仕事上の付き合いだけではなく、日常的な付き合いによって異文化理解を深めてきたとのことだ。