次々と新機種が登場するスマートフォン、コンシューマ家電で高い成長率が見込まれる市場だが、市場の拡大とともにもう1つ増えているものがある -- 特許訴訟だ。大きなニュースとなった米Apple対台湾HTC、Apple対フィンランドNokiaに続き、10月に入ってからも米Microsoft、米Motorolaなどの訴訟が次々と報告されている。
スマートフォン企業間の特許訴訟は、2009年10月のNokiaによるApple提訴が最初の大型事例といえるだろう。携帯電話最大手のNokiaは新参のAppleに対し、GMS、UMTSなどの無線技術に関連した特許を侵害したとして米国で訴えた。Appleはこれに対しNokiaを反訴、そしてNokiaは2010年5月、発売されたばかりの「iPad」も含めて再度特許訴訟を起こしている。対するAppleは9月、英国でNokiaを提訴している。
これ以外にも、目立つものだけでも、AppleによるHTC提訴とHTCの反訴、米Oracleによる米Google提訴、MicrosoftによるMotorola提訴、MotorolaによるApple提訴などが挙げられる。韓国Samsung、韓国LG、英Sony Ericsson、カナダResearch In Motion、シャープなど、主要企業はすべて何らかの特許訴訟に関係していることになる。これに、携帯電話を作っていないOracle、米Kodak、特許管理会社も加わっており、業界の訴訟関係は矢印がさまざまに交差するかなり複雑なものになる。
スマートフォンの新機種がリリースされるたびに訴訟も一緒に増えていく!? 左からiPhone 4(Apple)、DROID PRO(Motorola)、HTC Desire SoftBank X06HT II |
このような訴訟合戦には、少なくとも2つのモチベーションが考えられる。1つ目はすべての特許訴訟の理由である自社特許(イノベーション)の保護、2つ目は新規参入メーカーに対する牽制だ。2つ目はさらに、AppleとGoogleへの攻撃に二分できる。たとえばHTCやMotorolaへの訴訟は明らかに、Android(Google)を狙っている。
1つ目の理由から訴訟を起こしているのはOracleぐらいであり、多くは2つ目の理由に強くもとづいているように感じられる。つまり、各社はスマートフォンの覇権争いの戦術(の1つ)として、訴訟という手段を用いているのだ。特許訴訟がもたらす効果は、
- FUD(Fear, Uncertainty, Doubt) … 恐怖、不安、疑念を抱かせる
- 相手の動きを鈍化させる
などがある。1はMicrosoftが一時期、Linux陣営に対して行っていたものだが、CEOのSteve Ballmer氏をはじめMicrosoftはこのところ、Androidはタダではないという点をよく強調している。なお、MicrosoftはAndroidメーカーに対する特許により、自社OS採用へのプレッシャーをかけているとみることもできる。
2つ目の新規メーカーへの牽制についてだが、たとえば、共にApple(新規参入メーカー)を提訴中のNokiaとMotorola(古参ベンダ)が、「これまでライセンス契約を結ぶように協議を進めたが、Appleが応じなかった」といった旨を述べている。これまでの携帯電話業界がクロスライセンスで平和を保ってきた。クロスライセンスは契約した企業間がお互いの特許の利用を認めるものだが、UIを最大の差別化とする新規参入のAppleはクロスライセンスには後ろ向きだろう。
これに加え、これらベンダ間の駆け引きと直接は関与していない訴訟もある。特許を買い取り特許ライセンスにより収益を得るというビジネスモデルを持つ"パテントトロール"による訴訟だ。最新の例では、先週末に報じられたMicrosoftとAcacia Researchがある。Microsoftはここで、74件ものモバイル関連特許についてAcaciaとライセンス契約を結んだ。Acaciaは2010年3月にRIM、Apple、Samsung、Motorolaなどの企業を特許侵害で提訴しており、Microsoftがライセンスを受ける74件の中にこの特許も含まれているようだ。
このような特許訴訟のモチベーションと背景、それにスマートフォン市場の今後の動向予測を考慮すると、今後も特許訴訟は続きそうだ。中でも、急成長中のAndroidはオープンソースという要素もあり、直接/間接的に攻撃の的になると見られる。
だが、特許訴訟は高額で、訴訟費用やライセンス料がつりあがれば最終的には消費者がそれを負担することになる。訴訟の理由、それが消費者にもたらす効果、どちらから見ても現在のスマートフォン分野の訴訟合戦は良いものではない。そもそも特許とは、発明を奨励するためのシステムであるはずだが、現在では他社のイノベーションを阻止するために使われている。
特許訴訟がこの10年で3倍に増えたともいわれる米国では、ソフトウェアそれにビジネスメソッドを認めるかどうかが争点となっている。オープンソース陣営を中心に反対意見や特許システムそのものの見直しが必要という声が上がっており、政府の対応に期待がかかる。