東京大学(東大)は10月13日、同大大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻(ならびに工学部機械情報工学科)の中村・高野研究室をはじめとする複数の研究室が共同で仏Aldebaran Roboticsの教育プログラムに参加、同社のヒューマノイドロボット「NAO」を30台導入し、研究室における教育と研究への利用を開始することを発表した。
東大が30台導入することを決めたNAO。身長は58cm、重量は4.3kg。自由度は頭部2、腕5×2、腰×1、足6×2の合計25で、CPUにはGeodeを搭載。主なセンサとしてはカメラ(2台)、タッチセンサ、超音波センサ、マイクロフォンアレイ、ジャイロセンサ、加速度センサ、エンコーダ(モータ部)など約100個ほど搭載されているという |
NAOを活用して、中村・高野研究室ではどのような研究を行うかについて、東大情報理工学系研究科教授の中村仁彦氏は、「主にヒューマノイドロボットを用いて、人間とコミュニケーションする研究を行っている」とし、主な研究項目として以下の6つを掲げた(後ろの括弧は通称)。
- 人間の神経筋活動(マジック・ミラー)
- 身体部位の質量パラメータの推定法(ミステリー・スケール)
- 身体運動の分節化と分類による運動記号の生成(シンボル生成)
- 運動記号と言語記号を結ぶ情報処理(人間・ロボット・コミュニケーション)
- 人間の行動予測(クリスタル・ボール)
- 力反応型油圧アクチュエータ(アクチュエータ)
こうした研究に向けてNAOをどう使おうとしているかというと、「例えば、すでに動いている内容としては、工学部機械系の3年生を対象に平成22年度冬学期の少人数ゼミを開催する予定。NAOを1人1台用いて、身体の姿勢や動きの表現の美しさとは何かを探っていく。今週、受講する学生が決定される予定」とし、芸術関連の大学と連携し、美しさを探っていくとする。
また、会見に同席したAldebaranのCEOであるBruno Maisonnier氏は、「重要なのはすべてをプログラムでロボットに与えるのではなく、ロボットに教えて、ロボット自身が学んでいくことが重要だと感じている」とし、そうした意味で、中村氏らの研究は重要だと指摘した。
Aldebaranは2005年に設立されたロボットメーカーで、すでに700体のNAOを30カ国で販売しており、国内ではアールティが販売総代理店として活動している。NAOも2009年より販売が行われており、すでに慶応大学や立命館大学、筑波大学、京都大学などの情報工学分野の研究者を中心に40台近く販売しているという。価格は研究用途向けではメンテナンス費用込みで214万円程度とするが、オプションなどで前後するので、確認が必要とのこと。
Aldebaranが設立されたのは2005年。同社は設立前に10回ほど日本にも来日し、日本のさまざまな品質要求などに対するマーケティング活動を行い、デザインや製品の仕上げ具合などにも配慮したとのこと。国内販売はアールティが担当しており、コンシューマ向けの販売も計画しているという |
また、Aldebaranでは、「教育支援は重要な活動の1つ」(Maisonnier氏)とのことで、Aldebaran基金を設立し、その活用先として教育プログラムを2010年5月より開始。今回の東大への納入は、同プログラムの第1号として認定されたもので、「我々も企業のため、ただとまでは行かないが、同プログラムの適用により、かなり価格を抑えて提供している」(同)としており、機械工学分野などのほか、情報工学など幅広い分野での教育に活用してもらうことを目指していくとする。
なお、NAOを選定した理由について中村氏は、「確かに研究用の高価なロボットに比べると色々な点は見劣りする。しかし、センサなどは必要十分な性能のものを搭載しており、教育用途として見た場合は最適だと判断した。2足歩行ロボットは、日本的ないわゆる"ガラパゴス"的な発想ととらえられてきたが、現在はAldebaranのように、欧米でも研究が活発化しており、欧州ではさまざまなシーンにおいて、どう活用していくのかといった研究も進められている。我々としてもNAOを活用して、世界規模で研究の場を広げていければと思っている」と抱負を語ってくれた。また、同席した同研究室の東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻の高野渉氏に将来的な構想を聞いたところ、「前述した6つの研究のほかにも、将来的にはNAO同士を連携した学習の進め方や、東京大学が所有するスーパーコンピュータに処理を行わせ、学習速度の向上を図る試みなども行っていきたい」との将来展望を語ってくれた。
ロボット単体のみならず、ソフトウェア開発キット(SDK)などもレベルの高いものを用意。日本語対応もほぼ完成しており、Aldebaran社内にはすでに存在しているとのことで、2011年初頭にはそうしたツールの提供なども可能になる見込みとするほか、将来的には1m30cmくらいのNAOの弟分の開発や、音声・音響認識技術などの向上も進めていく予定とのこと |