セールスフォース・ドットコムは10月6日、プライベートカンファレンス「Cloudforce 2010 Japan」のプログラムとして、「起業」と「ソーシャル」をテーマとしたパネルディスカッション「アントレプレナーフォーラム」を開催した。モデレーターに元グーグル代表取締役社長の辻野晃一郎氏を迎え、米Salesforce.comの会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏、ネットイヤーグループのCEOである石黒不二代氏、NPO法人ETIC.事務局長の鈴木敦子氏がディスカッションを行った。

米Salesforce.comの会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏

ベニオフ氏は今年5月、自身もオラクルの社員から起業家になったという立場から、同氏の起業に関するノウハウを披露した『クラウド誕生 セールスフォース・ドットコム物語』を出版するなど、起業家を支援している。

ゲストスピーカーの石黒氏はスタンフォード大学でMBAを取得した後にシリコンバレーで起業するという経験を経て、現職に至る。ちなみに、同氏は、スタンフォード大に留学した際、お子さんを連れての渡米だったというエピソードを持つ。鈴木氏は大学在学中から起業を志望しておりETIC.の活動に参加。卒業直後に起業して2年半の企業経営を経験した後、現職に就き、今は社会企業家の支援を行っている。

ネットイヤーグループ CEO 石黒不二代氏

NPO法人ETIC.事務局長 鈴木敦子氏

ベニオフ氏は起業家にとって重要なこととして、「アイディアだけでなくビジネス、方法論など企業の価値観を醸成すること」、「顧客の意見に耳を傾けること」、「ビジネスを行う国の文化や市場を知ること」、「社会に貢献すること」などを挙げた。

「自社が儲けるだけでなく、社会に役立つものを送り出していかなければならない。そうでなければ、そのビジネスは間違っている」(ベニオフ氏)

元グーグル代表取締役社長 辻野晃一郎氏

ベニオフ氏の顧客志向は昨日発表された日本国内にデータセンターを設立するということにも表れている。「日本人は石橋を叩くのが好きで、欠点に目を向けやすい傾向がある。例えば、クラウドを利用する際、自社のデータを国外に置くことを心配する日本企業は少なくない」という辻野氏の言に対し、ベニオフ氏は「仮にそうだとしても、日本のお客様が国内にデータセンターを望んでいるのであれば、われわれはそれにこたえる」と述べた。

さらに、石黒氏は米国に比べて日本は起業するためのインフラが十分ではないと指摘した。「起業に対し、社会的な慣れが必要。スタンフォード大学では起業することが当たり前で、それが刺激になった。また、シリコンバレーには、起業して成功した人が今度は起業したい人を支援するというエコシステムがある」と同氏。さらに、「起業はアートではなくサイエンス。才能が必要なアートと異なり、学ぶことができるもの」というアドバイスも同氏はくれた。

近年、話題になる起業家はAppleのスティーブ・ジョブズ氏、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏など、米国人が多いが、辻野氏は「日本にも世界に誇れる起業家がいることを、今の日本人に対し声を大にして言いたい」と述べた。

ソニーで働いていたこともある辻野氏はソニーの創業者である井深大氏と盛田昭夫氏を尊敬しているという。しかし、同氏は学生に向けて講演する際に両氏を紹介しても知らないことが多いと嘆いていた。ビジネスマンにとっての常識も今の学生には通じないらしい。

こうした起業に関する日本の土壌の未熟さに加え、携帯に代表される市場の独自性など「日本悲観論」が飛び交ったが、ベニオフ氏は自身の経験を踏まえ、「日本の携帯電話関連の技術は素晴らしく、また、日本の市場も米国の市場も変わりはない。起業はどこにいてもできるもの。"何をしたいか"という気持ちが大切であって、ネガティビティは成功の歯止めとなる」と話した。

携帯電話についても「欧米諸国に対し、技術的に先を行っていたがゆえにガラパゴス化してしまった」とポジティブにとらえ、むしろ日本の技術をグローバルに進めていけばよいというわけだ。

海外のNPOと交流する機会を持つ鈴木氏は「ソーシャルビジネスは世界で競合することはないので、コラボレーションしやすい」と、グローバル化の可能性について言及した。

これを聞いた辻野氏は「起業家にはポジティブなマインドと闘争心が必要だと思う。ソニーの井深氏もポジティブなオーラに満ちていた。同じオーラをベニオフ氏からも感じる」と語った。

起業家には、自分のやっていることが正しいと信じてそれを実現するために負けないという気持ちと、逆境も前向きに乗り越えるという姿勢が必要不可欠な要素と言えそうだ。

ベニオフ氏はパネルディスカッションの間、何度かFacebookの内幕を描いた映画『The Social Network』は、起業家にとって有益であり、ぜひ見てほしいと言っていた。現在、起業している人、これから起業しようとしている人は同映画を見てみてはいかがだろう。