世界では最大規模のサービスを誇っているにもかかわらず、日本市場では先行企業に太刀打ちできず、運営に苦しんでいるインターネット関連企業は多い。Facebookはmixiに、GoogleはYahoo! JAPANに、それぞれ後塵を拝している状況だ。2002年、世界最大のオークションサイトでありながら、"ヤフオク"ことYahoo! オークションにまったく太刀打ちできず、日本市場からの撤退を余儀なくされたeBayもそのひとつだった言えるだろう。
それから数年経ち、eBayは日本市場戦略を大きく転換した。現在、日本法人のイーベイ・ジャパンは、日本のユーザが海外に向けて商品を販売する"クロスボーダートレード(CBT)"を強く支援する戦略をとっている。「日本のセラーは世界でも非常に評判が高い。商品のクオリティ、ユニークな商品セレクション、ハイレベルのカスタマーサービス、どれを取ってもバイヤーからの満足度が非常に高く、顧客満足度を示すNet Promoter Scoreは世界最高」と日本のセラーを高く評価するのはイーベイ・ジャパン ディレクターのアリス・ギム氏。同氏によれば、日本のトップセラーであれば、出品した商品の6割が売れるという高い需要が存在するという。ちなみに、eBayで最も売れた日本のセラーの上位3カテゴリは「衣類/アクセサリー」「コレクター向け商品」「写真用品」となっている。
これまで日本国内のユーザ(バイヤー)だけを相手にしていた日本のセラーにとっても、世界39カ国、9,000万人以上のアクティブユーザを抱えるeBayを使って販路をグローバルに拡げることができれば、過剰在庫やアウトレット品の一掃、店舗以外の補完的な販売チャネルの確立など、大きなビジネスチャンスにつながる可能性が高い。また、eBay自身、オークションサイトというイメージからの脱却を図るべく、個人または企業にとっての"新たな収益源"というビジネスチャネルとしての側面を強く打ち出している。「オークションサイトのイメージが強かったころとは違い、現在、eBayの取引額570億ドル(2009年)のうち55%が定価販売」(ギム氏)だという。
そこで、日本のセラーを増やすためにイーベイ・ジャパンが力を入れているのがコンテンツの日本語化だ。2009年4月1日、同社はクロスボーダートレードを行う個人および企業を対象に日本語のポータルサイトを開設し、新規セラーから経験者までを幅広くカバーするコンテンツ、たとえばeBayでビジネスをはじめる方法や、世界中のeBayサイトで更新されるセラー情報などを日々掲載している。また、eBayでのビジネスを学べる無料オンラインセミナーもほぼ毎日開催されている。「我々のミッションは世界中のeBayサイトで日本のトップセラーの海外出品を促進すること。そのためにコンサルタント的なハイタッチなサポートを提供するため、イーベイ・ジャパンチームは東京に常駐している。また、東京、大阪などの主要都市で、eBayのビジネスで成功しているセラーを招いたトップセラーセミナー(リアルセミナー)を常時開催していく」(イーベイ・ジャパン シニアマーケティングマネージャー 魚住潤一氏)という。日本語の情報を日本人セラーに積極的に提供することで、クロスボーダートレードに対して安心感をもってもらうことも狙いのひとつだ。「eBayなら、世界でモノを売るのはむずかしくない、という実感をもっていただくことが我々の役割だ」(魚住氏)
すでに、eBayを使って海外に大きく販路を拡大した日本人の成功例も多く存在する。中古デザイナーファッション買取サービス「ブランディア」を運営するデファクトスタンダードはYahoo! オークション最大の出品者のひとつでもある。同社はここ最近、海外にも販路を拡大するためにeBayにも出品を開始した。結果、2010年1月に比べ、9月の時点でビジネスは450%成長したという。同社代表取締役社長 竹内拓氏は、「日本の商品を日本で売るだけのビジネスとは大きく異なる。日本で価値がないと判断された商品でも、海外では高く売れることが多くあり、日本とは違う形のビジネスが存在することを実感する。また、中古商品が売れるためにはできるだけ数多くの人びとに見てもらう必要がある。その点でもオークションサイトとして世界最大のeBayに出品する効果は大きい」と語る。決済に関しても「デフォルトがPayPalなので、早いキャッシュフローで回収できるのが魅力的」という。さらに、常時4 - 5万の商品を抱えるブランディアでは、商品の表示を行うWebアプリケーションを開発するにあたってeBayから提供されているAPIを利用し、開発効率を大幅に圧縮することができたという。
eBayでは日本のユーザが海外の商品を購入するにあたっては購入代行サイト「セカイモン」を通じて行うことを推奨している。これに対してイーベイ・ジャパンはあくまでも日本人セラーの海外販路拡大を支援する立場を取る。同社によれば、日本人セラーの販売額は年率33%で急成長を続けており、商品数もこれに伴って大幅に増加しているという。ユニークで質の高い製品を、日本から世界へ - 一度日本市場から撤退した同社は、市場の閉塞感に悩むこの国を別の視点から再びターゲットに置き、今度こそビジネスとして成功させることに挑む。