東芝は、裸眼で3D視聴が可能なグラスレス3Dテレビ「REGZA GL1シリーズ」を、12月下旬から発売する。発売するのは、20型の20GL1(市場想定価格は24万円前後)と、12型の12GL1(同12万円前後)の2機種。また、試作品として56型の大画面モデルも開発中であることを明らかにし、10月5日から開催するCEATEC JAPAN 2010の東芝ブースに発表した新製品とともに展示する。
「裸眼3Dを実現したのは、東芝モバイルディスプレイが開発した専用パネルと、CELLブロードバンドエンジンをコアにしたグラスレス3D専用エンジンによって成しえたもの。この2つの技術があったからこそ、裸眼3Dテレビを実現できた」と、東芝の執行役上席常務であり、ビジュアルプロダクツ社の大角正明社長は語る。
20型の製品では、フルHDの4倍の画素数となる約829万画素のパネルを採用。これを使用し、1280×720画素表示とすることで裸眼3Dを達成。さらに20型モデルにはCELLレグザエンジンを搭載し、このパワーを活用した多視差変換技術を活用することで、映像全体を3D映像として見ることができる3Dの視域改善を行っているという。
3Dグラス方式の3Dテレビと同様に、左右の目に別々の映像を見せるという基本概念は同じだが、パネル上の特殊なシートを通して左右の目にそれぞれにアングルの異なる映像を見せることで立体視と運動視差を実現。より滑らかで広範囲の3D映像を実現するためにインテグラルイメージング方式を採用しているという。
「奥行き感や飛び出し感よりも、画像が二重映りしないという点に力を注いだ。1日のうち、3D視聴の時間は限られる。そのときに、満足できるレベルを目指した」とする。遠目からみると3Dの奥行き感などは残念ながら体験できない。テレビまで60cm程度という近い視聴距離が必要だという。3D視聴に適した暗い部屋で見た感じでは十分満足できるものといえる「専用メガネをかけずに楽しめる3Dテレビは、リアリティ追求の理想の姿である。2010年12月、夢のテレビが現実のものになる」というのもうなずける。
製品発表はCEATEC会場で、開催前日に行われた。会場に数多くのマスコミが訪れ、競合他社の関係者も遠巻きに輪を作った。だが、マスコミの過熱した報道ぶりとは裏腹に、東芝は、このグラスレス3Dテレビを、当面、主力製品に位置づけようとはしていない。
東芝のビジュアルプロダクツ社 大角社長は、「東芝はいち早くグラスレス3Dテレビを商品化したが、その狙いは、まずは技術を出していくという点にある。少し技術オリエンテッドなところもあるが、大きな流れや長い時間軸でみればレンズレスは当然の流れとなる。大型化はまだ先の話だが、市場に出す決断をした」と語る。
2010年は、3Dテレビ元年というのは業界における共通の認識。だが、東芝が今回の製品で目指したのは、直近のビジネスではなく、将来に向けた技術の方向性を具体的に見せるという点だったといえる。「コスト、サイズという点では完全にユーザーを満足させられるものとは考えていない。だが、裸眼による3Dテレビがここまで来ているということを見ていただき、着実にグラスレス3Dの世界に向けて、着実に進行していることを示した」と大角社長。20型の製品に対して、「ポリテカィルプライス」と表現したことからも、この製品でビジネスを大きく拡大する意図がないことを裏付けるものだといえよう。
東芝では、アクティブシャッター方式の3Dグラスをかけて視聴できる3Dテレビをすでに投入している。今回、グラスレス3Dテレビを発表したものの、3Dにおける販売の主軸はやはりグラス方式の3Dテレビであると見ている。
グラスレス3Dの新製品は、それぞれ月産1,000台の出荷を計画しているが、3Dテレビ全体のなかでみても10分の1程度に留まるというのがビジネスプランだ。大角社長は「来年のある時期には、レディモデルを含めて、国内投入する40型テレビは基本的はすべて3D対応モデルにする考えだ」とするが、これは3Dグラスを必要とする製品の話であり、ここからも3Dテレビの主軸は、3Dグラスをかけて視聴するテレビであるとわかる。「今回のグラスレス3Dテレビは、3Dテレビの選択肢を広げるという点で意味があると考えている。多くのユーザーは、大画面のものが欲しいというだろうが、CEATECに参考出品を行う56型のグラスレス3Dテレビも発売時期などは現時点では明確にできるものではない」とする。
製品として発表した12型、20型は東芝モバイルディスプレイ製であることを明らかにしたが、40型以上のディスプレイとなると東芝モバイルディスプレイで生産を行っていないため、他社から調達する必要がある。「56型の製品は、このサイズに規定したものではない」とするが、東芝は、今回の製品投入を皮切りとして、新たなパネルの調達先の獲得を含めて、今後、大画面化へと歩を進めることになる。
グラスレス3Dテレビは、東芝にとって技術的な新たな挑戦であり、それがここまで現実のものになっていることを示すには大きな意義を持ったものだといえる。だが、ビジネスとの観点としては、まだまだ時間がかかるという慎重な姿勢を崩してはいない。そこに東芝の技術的な自信と、的確なマーケティング判断が両立していることを感じた。