新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、NEDOの次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発の一環として、北海道大学(北大)と東京工業大学(東工大)、東京理科大学(東京理科大)らの研究チームが、フェライト磁石のみで構成しながらも、従来のハイブリッド電気自動車(HEV)用希土類磁石モータに匹敵する出力を有することに成功した新構造のロータセグメント形アキシャルギャップモータの開発に成功したことを発表した。レアアースを使わず、安価なフェライト磁石だけで構成されているため、次世代自動車の開発における、日本の産業競争力を高めることが期待される。
従来フェライト磁石で用いられてきた構造であるアキシャルギャップモータは、磁性体で構成されるロータバックヨーク(ロータディスク)上に磁石や鉄心を配置する構造が一般的であり、そのため磁石厚を厚くできないほか、フェライト磁石を使用した場合、磁力が弱いことにより減少するマグネットトルクを補うために、リラクタンストルクを有効に発生する必要があったが、ロータバックヨークの存在により突極比が大きくならず、リラクタンストルクも有効に発生できないという問題があった。
また、磁石厚が厚くなく、突極比が小さいため、フェライト磁石に不可逆減磁を発生させる磁束が流れ込みやすく、容易に不可逆減磁が発生してしまうという問題もあった。
そのため、レアアース(希土類元素)を使用する希土類磁石と比べ、フェライト磁石は磁力が弱く、HEVや電気自動車(EV)用モータに使用した場合、フェライト磁石の不可逆減磁に加え、高出力が得られないという問題があり実用には適さなかった。
研究グループでは、これらの問題を解決するために、ロータバックヨークを無くし、フェライト磁石と圧粉鉄心を非磁性の支持部材に交互に組み込み、磁石と圧粉鉄心をそれぞれ分割した新構造「ロータセグメント形ア キシャルギャップモータ」を提案。同構造は従来構造に比べて、フェライト磁石に不可逆減磁を発生させる磁束が磁石に流れ込むのを抑制でき、かつ突極比を大きくできるために、リラクタンストルクを有効に発生でき、高出力を実現できるという特長を備えている。
そこで研究グループでは、3次元有限要素法によりHEV用フェライト磁石モータとして適切な構造設計を行い、従来のHEV用希土類磁石モータと同サイズの試作機を設計・製作した。
試作されたフェライト磁石のみからなる新構造ロータセグメント形アキシャルギャップモータに対して定トルク領域における実負荷試験を実施した結果、従来のHEV用希土類磁石モータと同サイズで同等の51.5kWの出力を発生できることが確認された。
今後、研究チームでは、試験を継続して行い、試作機のさまざまな運転条件におけるモータ特性を取得することで、新たに提案するフェライト磁石モータのHEV用モータとしての有効性をさらに検証していく予定とするほか、レアアースに依存しない同成果の研究を継続して行っていくことで、さらなる高性能化を目指し、日本の次世代用EV分野における国際競争力の向上を目指すとしている。