半導体ベンダが販促活動や営業活動などにインターネット技術を使う動きが活発だ。大手の半導体ベンダはもちろんのこと、中堅の半導体ベンダでもWebサイトに製品カタログやデータ・シート、アプリケーション・ノート、新製品リリース、販売代理店などの情報を配置している。おおよその要求仕様から所望の製品を検索する機能をWebサイトに装備することも珍しくなくなった。オンラインの設計ツールを無償で開放する半導体ベンダもある。
このような中でいち早くiPhone/iPadへの対応を進めたのがオランダのNXP Semiconductorsだ。製品カタログやデータ・シート、参考回路図、製造中止品情報などを格納したiPhone/iPadアプリ「NXP」を開発し、無償配布を始めた。「NXP SemiconductorsのWebサイトに格納してある情報をほぼすべて、iPhone/iPadアプリ「NXP」に移植した」(NXP SemiconductorsでMarketing Communications and Corporate PR担当バイス・プレジデントをつとめるSander Arts氏)という。1万点を超える製品を選び、データ・シートを閲覧し、購入できるとする。
左がMarketing Communications and Corporate PR担当バイス・プレジデントをつとめるSander Arts氏、右がIntegrated Marketing Communications担当ディレクターをつとめるHan Nabben氏 |
iPhoneアプリ「NXP」の作業画面例 |
iPhone/iPadアプリ「NXP」は基本的にはiPhoneアプリである。iPadではiPhoneアプリと同一の画面を見ることになる。iPadでは画面の大きさを2倍にして閲覧するのが適切だろう。iPhoneアプリ「NXP」はApp Store(Appleのダウンロードサイト)から無線LAN経由で無償でダウンロードできる。
iPhoneアプリ「NXP」の初期画面。製品検索画面が立ち上がる |
iPhoneアプリ「NXP」の初期画面からアプリケーション別の検索画面を開いたところ |
アプリケーション別からビデオ用A/Dコンバータ「TDA8706AM」を選択した画面 |
インターネットを主体とした販促活動を推進
NXP Semiconductorsは、大手エレクトロニクス企業のPhilipsから分社して2006年に誕生した半導体専業ベンダである。2008年にモバイル向け半導体事業を売却、2009年にデジタル家電向け半導体事業を売却し、現在では高性能ミクスドシグナル(HPMS)半導体部門とスタンダード(個別半導体)部門、自動車向け半導体部門、ID(認証)用半導体部門で事業を展開している。コア事業とNXPが位置付けているHPMS半導体部門は、高速A/DコンバータICや高速D/AコンバータIC、高周波(RF)IC、ARMコア内蔵マイコン、インタフェースIC、電源ICなどを擁する。
また2010年8月6日にNXP Semiconductorsは米国のNASDAQに上場した。現在ではPhilipsが所有していたNXP Semiconductorsの株式をすべて売却しており、資本関係としては完全に独立した上場企業となっている。
事業再構築を進めたNXP Semiconductorsが現在取り組んでいるのが、インターネットを主体とした販促活動である。企業Webサイトの拡充はもちろんのこと、電子メール・リスト、バナー広告、ソーシャルメディア、オンライン・セミナーなどを通じて半導体ユーザーの掘り起こしを進めている。
興味深いのは製品個別の販促活動(プロダクト・マーケティング)ではなく、応用分野や製品分野などのテーマごとに販促活動を展開していることだ。例えば2010年には、「高速データ変換器」、「照明」、「エネルギー効率の高い駆動」、「高性能RF」などのテーマでオンラインの販促活動を実施してきた。同社ではこの販促手法を「インテグレーテッド・キャンペーン」と呼んでいる。
これはなかなか上手い手法だと思う。なぜならば、半導体ユーザーであるエンジニアにとって「何を作るか」はほぼ決まっているからだ。
例えば照明器具を設計するとしよう。そこで必要となるのは、照明器具を構成する半導体製品にはどのようなものがあって、所定の予算内ではどのような回路を構築できるかの情報である。始めに半導体製品があるのではなく、システムの構築に利用できる半導体製品にはどのようなものがあるかが知りたいのだ。
また、既存のシステムではすでに半導体製品の情報が普及しているが、新しい分野、あるいはこれから成長が期待される分野では、半導体製品の情報がそろっていないことが多い。成長分野をテーマとする販促キャンペーンが重要になる。
iPhoneアプリの開発によるオンライン・ツールの増強と、インテグレーテッド・マーケティングによるテーマ別製品情報の供給で、オンラインでのマーケティングを質量ともに強化していく姿が、同社の動きから見える。