米Oracleの年次カンファレンス「Oracle OpenWorld 2010 (OOW 2010)」が9月19日(現地時間)、開催初日前夜に行われたOracleとHewlett-Packard (HP)エグゼクティブらによるキーノートスピーチで幕を開けた。通常であれば前日夜のキーノートは挨拶的な意味合いが強いのだが、今年は米Oracle CEOのLarry Ellison氏による予定時間を大幅に超過する長時間スピーチの中で「Oracle Exalogic」によるElastic Cloud戦略が発表され、さらには水曜日の同氏のキーノートで発表予定の「Fusion Applications」について簡単なプレビューが紹介されている。
突然のヨットレースの模様を紹介するビデオ映像の上映でスタートしたEllison氏のキーノートスピーチだが、その実は今年開催された第33回アメリカ杯で同氏がスポンサードするヨットチーム「BMW Oracle Racing」が優勝したことを受けてのものだ。ステージ上に登壇したEllison氏はこれについて熱く語り、会場内に招待されていたチームクルーの業績を称えた。
Larry Ellison氏のキーノートが始まる直前、会場には第33回アメリカ杯のヨットレースの映像が突然流れ始め、Ellison氏がスポンサードするヨットチーム優勝の様子がアピールされた |
OOW会場に招待された「BMW Oracle Racing」ヨットチームのクルー。なお、クルーメンバー付近にはEllison氏とともにHP元CEOのMark Hurd氏の姿もあった |
そんなヨットレースの話でスタートした今年のOOWだが、同氏が最初に出したスライドは「クラウドコンピューティングとは何か?」を聴衆に問いかけるものだった。なぞなぞのようなものだが、同氏は「古くもあり、新しくもある技術」「言い換えれば、一方はリブランディング(Rebranding)されたもので、もう一方はイノベーション(Innovation)だ」「さらにいえば、一方は"アプリケーション"であり、もう一方は"プラットフォーム"である」と次々とその内容を特定していく。Ellison氏によれば前者は「Salesforce.comのSaaS」のようなものであり、後者は「Amazon.comのElastic Cloud (EC2)」だという。
多くがご存じのようにAmazon EC2は現在のクラウドサービスの原型といえるものであり、「インスタンス」と呼ばれるOSイメージをAmazon.comが用意するデータセンター内で実行するものだ。このインスタンスはLinuxなどのOSそのものなので、従来の管理/開発テクニックがそのまま利用でき、さらには既存のアプリケーションもそのまま流用できる。一方のSalesforce.comはもともと同社のCRMアプリケーションを利用するための環境としてスタートしたもので、その実行環境の一部をユーザーに開放してカスタマイズされたアプリケーションが実行できるような仕組みを用意している。どちらもクラウドサービスとして売り出しているものだが、同じクラウドでもその内容はかなり異なる。
「"クラウド"の定義については個々に違う意見があるだろうが、少なくともOracleの視点でいえばSalesforce.comのサービスは"クラウド"ではない。同じデータベースや実行環境を複数ユーザー間で共有することでセキュアではないし、仮想化も行われていない。さらに柔軟性もなく、EC2のようにユーザーからのアクセスが急増してもインスタンスの追加でのキャパシティ強化は行えず、みすみす商機を逃すだけだ」とEllison氏は述べ、少なくとも"クラウド"の定義ではOracleはAmazon.comを支持するという。Salesforce.comはアプリケーションの一種に過ぎず、ユーザーはこうしたSaaSと呼ばれるアプリケーションサービスか、あるいは「真に柔軟性の高いクラウド(Elastic Cloud)環境」のいずれを利用すべきなのかを考えてほしいと訴える。
そこで発表するのが今回の目玉の1つである「Oracle Exalogic Elastic Cloud」だ。これはデータベースマシンのExadataに次ぐOracleのソフトウェア + ハードウェアの融合製品第2弾にあたるもので、米Sun Microsystem買収以後に両社のコラボレーションで技術開発が行われた2つめのハードウェアになる(1つめはExadata v2)。データベース処理に特化したExadataとは異なり、こちらは汎用アプリケーションの実行が可能なハイエンドマシンという位置付けになる。1ラックあたり30台のサーバグリッドと360のプロセッサコア(6コアプロセッサ×2ソケット×30)を搭載し、ラック中央部に配置されたストレージとExadataとは40GbpsのInfiniBandのインターコネクトで接続されている。
ソフトウェア的にはOracle VMにホストされたSolarisまたはLinuxが動作し、その上のレイヤにExalogic Elastic Cloudソフトウェアが中間層として存在し、Java実行エンジンのJRockitまたはHotSpotが配置され、この上でアプリケーションが動作することになる。さらにアプリケーションサーバとしてWebLogicのほか、Oracle Coherenceがミドルウェアとして介在する。Coherenceの効果により、独立した各サーバは1つのサーバグリッドとしてユーザー側からは認識され、耐障害性の高い(Fault-tolerant)柔軟性あるシステムとして稼働する。
そのほか製品の特徴として、すべてのユーザーに対して同一のコンフィグレーションでExalogicが提供されることが挙げられる。Oracleではこのメリットをメンテナンスの容易性にあるとしており、たとえばソフトウェア部分を共通化することでパッチ用のアップデートをすべて1つにまとめることが可能になり、アップデート作業が容易になるという。「もしある顧客でバグや脆弱性が見つかった場合、同じソフトウェアを利用するすべての顧客のシステムに問題が存在することを意味する。それならば、同時にパッチを適用できる環境のほうが事前防衛的な意味でも効果がある」とEllison氏は言う。
また前述のようにOracle VM上でLinuxが動作するようになっているが、ここでOracleは「Unbreakable Enterprise Kernel for Oracle Linux」という新カーネルを発表している。これは2006年のOOWでEllison氏が発表した「Unbreakable Linux 2.0」のビジョンを継続するもので、当時はRed Hatのサポート代行的な意味合いが強かったのだが、今回はカーネルそのものをOracleがリリースする形態となる。Ellison氏によれば「Red Hatのサポートは遅く、Oracle製品とのテストを行ったリリースも行われていない」と不満があり、ExadataやExalogicなどの高パフォーマンス環境での実行に適したLinuxカーネルを自ら用意しようというのがその根底にあるようだ。
なお、Exalogicは最大8ラックまでスケールアウトが可能で、単体のパフォーマンスとしては一般的なインターネットアプリケーションで12倍、一般的なメッセージング処理では4.5倍の性能があるとEllison氏は説明する。毎回恒例の比較対象としてはIBMのPower 795マシンが挙げられ、同じハイエンドマシンにも関わらずExalogicのほうがコストパフォーマンスが高いことを同氏は強調した。
パフォーマンスについての解説。「Facebookの全トランザクションを2つのExalogicラックで処理可能」と少々暴力的な言い回しながらパフォーマンスの高さを強調する |
1台のラックサーバで高いパフォーマンスと冗長性を実現しているため、多くの業務アプリケーションを1つに集約する「サーバ・コンソリデーション(サーバ統合)」にも向いている |
最大8つのラックまでスケールアウト可能 |
Ellison氏のキーノートではお馴染みのライバル製品との比較。今回はIBMのPowerサーバだ。なお、昨今の諸般の問題やOOWのメインスポンサーという事情もあるのか、もう1つのライバルであるHPサーバは比較対象に挙がっていない |