ルネサス エレクトロニクスは9月14日、マイコン事業の新たな施策を発表した。同社のマイコン事業は世界シェア第1位を誇る中核事業であり、2010年度半導体売上高見込みの37%を占める。同社が将来、飛躍するためには、同事業のさらなる拡大が期待されることとなる。

新たな事業施策は、同社の前身である2社「NECエレクトロニクス(NECEL)」と「ルネサス テクノロジ(RT)」による統合後の事業内容見直し活動である「100日プロジェクト」に基づくもので、「製品」「開発環境」「製造プロセス」の3つの領域で統合シナジーの最大化を図るというもの。

会見にて説明を行ったルネサス エレクトロニクス 執行役員兼MCU事業本部長の水垣重生氏

同じくルネサス エレクトロニクス 執行役員兼MCU事業本部副事業本部長の岩元伸一氏

同社のマイコン事業の方針

統合シナジーの最大化により、製品開発を効率化

製品については、ハイエンド、ミドルレンジ、ローエンドの3つのドメインに対して、同社が保有する5つのCPUコアの製品を集中していく。5つのCPUコアは、「V850」「Super-H」がハイエンド向け、「RX」がミドルレンジ向け、「78K」「R8C」がローエンド向けに展開されるが、さらにハイエンド向けではSuper-Hが自動車の制御系パワートレインやデジタルオーディオ向け、V850がミッドゾーンより上の領域向け、ローエンド向けでは78Kがシンプルな構成が必要される領域向け、R8Cが豊富な周辺機能を生かせる領域向けにそれぞれ棲み分けを図り、2012年までは現行のこの5つのCPUコアによる製品展開を進める方針。

この5つのCPUコアに対して、マイコン製品に内蔵するタイマや通信機能などの周辺機能(IP)をいずれのコアにも対応できるように共通化する。さらにCPUコア、周辺機能、内蔵メモリを組み合わせてマイコン製品を開発する製品開発基盤を統合することで、製品開発期間は従来の約2/3に短縮できるようになるという。

CPUコアの位置づけ

自動車向けアプリケーション

開発環境については、統合プラットフォームにより周辺IPおよび開発ツールを共通化し、5つのCPUコアに対して共通の統合開発環境を実現する。これにより、5つのCPUコアを同じツールで開発可能となり、ユーザーのソフトウェア資産の有効活用や開発効率向上を支援する。

エミュレータやフラッシュライタなどハードウェア開発ツールは2010年12月から、統合開発環境およびコンパイラなどのソフトウェア開発ツールは2011年度から順次提供していく。

製造プロセスについては、製造技術を統合し、柔軟なファブネットワークを構築する。130nmプロセスは旧NECELの熊本川尻工場(熊本県熊本市)と旧RTの西条工場(愛媛県西条市)で、40nmおよび90nmプロセスは旧NECELの鶴岡工場(山形県鶴岡市)と旧RTの那珂工場(茨城県ひたちなか市)で、同じ製品を双方の工場で生産可能な体制を構築する。これにより、フレキシブルな生産に対応する。また、投資のコントロールを1つの技術に対して集中的に行うため、需要が増大した場合に効果的な投資が可能になる。

すでに量産が始まっている130nmおよび90nmプロセスについては、130nmプロセスが旧NECEL、90nmプロセスは旧RTのプロセス技術をベースとする。次世代の40nmプロセスについては、「両社の技術の長所を組み合わせて開発を進めている」(同社執行役員兼MCU事業本部長の水垣重生氏)という。具体的には、ベースCMOSは旧NECEL、不揮発性メモリ技術は旧RT、低リークを実現するHigh-k技術は旧RTの技術を導入する。40nmプロセス製品は、大容量フラッシュを搭載し高速・高性能を実現する先端製品として2012年にサンプル出荷を予定している。

ルネサスのファブネットワーク

新興国向けおよびグリーンデバイスにより成長を図る

同社ではマイコン事業の成長ビジョンとして、「Global & Green」を掲げている。

マイコン事業の成長ビジョン

「Global」については、先進国向けと新興国向けの2軸で市場の成長に対応する。先進国向けは付加価値の向上として、自動車分野に加え、セキュアな社会をターゲットとする。これまでスマートカード、ICカード、ETCなどを提供してきた旧RTの基礎技術を生かして、家庭や車載をはじめトータルネットワークにおけるセキュリティを実現する。

中国・インド・ブラジルなどの新興国では、よりインテリジェントな社会へ発展していく過程でのマイコンの需要増に対応する。その一例として中国の体制強化を図り、中国向け製品の企画・開発・生産・販売を一貫して現地で行う他、さらにローコスト化を進める。2010年10月から新組織を発足させ、3年間で1000製品を中国市場に投入する。

また、グローバルに展開していくユーザーをサポートするため、世界中のパートナー企業700社と連携し、グローバルなサポート体制の構築を進めている。ユーザーのグローバルな製品展開に対応するマーケティングおよび製品開発、ユーザーのグローバルな生産体制に対応するサプライチェーン、ユーザーが現地で行う設計に対するエンジニアリングサポートなど、「ローカルでのサポートをグローバルに連携する体制を構築する」(同社執行役員兼MCU事業本部副事業本部長の岩元伸一氏)。

一方の「Green」については、エコ社会の実現に貢献する低消費電力マイコンや各種ソリューションを提供する。アナログICやフォトカプラなどのアナログ&パワー半導体製品とマイコンを組み合わせ、ハイブリッドカーおよび電気自動車向け製品の販売を行う。さらにスマートビルディングや、工場全体の効率化を実現するスマートファクトリ向けソリューションも提供する予定という。

これらの施策により、同社はマイコン事業で2012年度までに年平均成長率8~10%の事業拡大を目指すほか、新興国を中心とする海外売上比率を現在の50%から60%まで引き上げる方針としている。